身長152センチの少女が、世界の女性トップアスリートのだれよりも遠くへ、そして、美しく飛ぶ。どうして女子ジャンプの髙梨沙羅選手(17)は、こんなに「敵なし」なのか。彼女の秘密を探った。
小さな体も「武器」となる。スピードスケートの清水宏保は、自分の長所を体が小さいことではないか、と話していたことがある。速度が上がれば上がるほど、体が受ける風圧は大きくなる。小さな体を生かして滑走姿勢を低くすれば、大柄な選手より風圧は受けにくくなり、自分のパワーを十分に生かせるからだ。髙梨は152センチという小さな体を有効に使うことで、助走や飛び出しでパワーのある大柄な選手より優位に立っているともいえる。
そんな髙梨を、全日本代表チームの山田いずみコーチは「彼女の場合は才能というよりも、努力の人だと思う」と話す。自分が必要だと思えば、それを身につけるためにトコトン努力をすると。元々バランスの良さは持っていたが、さらに高めるためのトレーニングも欠かさない。また栄養士から食事の指導を受けるようになると、遠征時にはその日その日の食事の写真をメールで送り、アドバイスを求めていた。
常に強くなるために貪欲(どんよく)な意識を持つ。彼女のそんな姿勢が如実に出たのが、一昨年の春に一時ジャンプスーツのサイズが体の大きさと同じ0センチのルールになった時だ。それまでのプラス6センチから一気に小さくなり、空中で受ける浮力も減るため、選手は誰もが不安になった。
だが、彼女はそんな時でも飛び出しでバランスが崩れていることに気付き、自分の筋力のバランスを矯正することのキッカケに転化したのだ。以前は多少のバランスの崩れもスーツの力で補えていたが、これからはそれが命取りになると考えたからだ。自分で課題を見つけ出し考え、自分で修正しようという能力の高さも彼女の強さを支えている大きな要因のひとつだ。
※週刊朝日 2014年2月7日号