楽をして正社員になりたい――。これが今の高校3年生、現役受験生の“夢”らしい。「さとり世代」とも呼ばれる彼らは、「入りたい」大学ではなく「入れる」大学を目指す。
そもそも、さとり世代とはどんな人々なのか。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーで、新書『さとり世代』(角川oneテーマ21)の著書もある原田曜平氏は、「ゆとり世代と基本的には同義です」と言う。
「ゆとり世代には否定的な印象があり、それを払拭(ふっしょく)しようとネットを中心に広まりました。いわゆる草食系とも重なり、かつては先進国病とも呼ばれました」
つまりは豊かな国に生まれた若者の特徴ということらしい。現状への満足度が高く、社会に反抗することはない。消費意欲や恋愛願望などの“欲望”に乏しく、文字どおり「さとり」に達したように覇気がなく見える場合もある――。
ゆとり世代の定義はさまざまだが、「ゆとり教育」と呼ばれた、学習内容や授業時間を減らした学習指導要領による教育を受けた「1987年4月2日から、96年4月1日生まれ」とする見方がある。この場合、上は今年27歳になり、下は現在の高校3年生だ。
つまり、今年の現役受験生は「最後のゆとり世代」になるわけだ。
そのため今年の現役受験生には大きな脅威がある。「脱ゆとり教育」を受けてきた後輩の存在だ。何しろ今の高3と高2では教科書の厚さからまったく異なる。「上下の学年が接する部活などで話題になり、高3を怯(おび)えさせている」(教育ライター)というのだ。
都内の私立中高一貫校の教頭が言う。
「浪人したら新カリキュラムで学んだ2年生たちと競争することになるという不安が、高3を安定志向にさせているようです」
ゆとりで育った「無欲」さと、後輩への「怯え」。これらが「さとり世代」の受験に影響を与えている。
大手予備校の河合塾、近藤治・教育情報部長は「自分の極限まで勉強して、という生徒はそれほど多くはありません」と指摘する。
「可能な範囲でがんばって、現役で合格できる大学でよしとする。生まれたときから景気のいい時期があったわけでもなく、夢を抱きにくいのかもしれません。家族の仲がよく、両親のアドバイスを受け入れる素直さもあるようです」
※週刊朝日 2014年1月31日号
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