東京オリンピック開催が決定し、来る2020年に向けて喜びに沸いた日本。しかしそれに隠れて見えないところで静かに発表され、国民の目にはあまり触れることなく過ぎた重要な出来事があった。作家の室井佑月氏は「マスコミと国の策略か?」といぶかしむ。

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 2020年の東京オリンピック招致が決まった翌9日、こんなニュースがあった。

「原発事故の責任問わず 菅元首相ら全員不起訴」

 東京電力福島第一原発事故を巡り、業務上過失致死傷容疑などで告訴・告発されていた東京電力の旧経営陣や、当時の政府関係者などの42人。検察はその全員を、刑事責任を問うことはできないと判断し不起訴処分にする、というものだ。

 もちろん国民は東京オリンピックで浮かれているから、大きな話題になっていない。しかもこれは検察がリークしていたニュース。

(うわっ、検察っていやらしい)

 そう思ったのはあたしだけじゃないだろう。

 翌日、レイバーネットというサイトに、東電株主代表訴訟原告団の「抗議声明」を見つけた。そこにはこんなことが書いてあった。

〈(検察が不起訴について)国民がオリンピックの話題に浮かれているその日、更に新聞
 休刊日にこっそりと発表した。この不当な不起訴処分を、ニュースの陰でこっそり行おうとしたもので恥ずべき行為である〉
〈すべての報道機関が「福島原発告訴団等が告訴している菅元首相ら不起訴処分」と同様の見出しを打っている。しかし、福島原発告訴団が告訴している中に菅元首相は含まれていない。福島原発告訴団が告訴・告発しているのは、原発を推進して来た東電歴代取締役、
 福島県による事故後の安全キャンペーンを担った学者たち33人そして法人としての東電である〉

 福島原発告訴団は市民団体で、告訴・告発人数は1万4716人にのぼる。この告訴団は菅さんを訴えていないのに、ニュースの見出しが「菅元首相ら」となるのはたしかに変だ。おかしくないか?

 マスコミが国と相談し、菅さんを人身御供に差し出した、ってとこなんだろうか。「もういらないしな」という考えで。

 あたしは菅さんがこの国にとって必要な存在だとはまったく思っていないが、そういう悪どいことを考える人間がいちばんワルだと思っている。

 自分らに責任が来ないよう、菅さんを目くらましに使う。責任が来ないようにどころか、被害者そっちのけで、まだまだ儲けようという腹づもりなのかもしれない。

 我々国民だって困るよ。責任ひとつ負えない、力のない人を、これからのことに差し出されても。完全に舐められているなぁと思うだけ。

 そう、福島第一原発事故の問題は、これからの問題でしょう。

 安倍さんはオリンピック招致を決める国際的な場で安全を宣言したが、福島第一原発はまだコントロールどころか、この先、どうしてよいのかもわかりかねている状況だ。

 東京オリンピックは2度目だけど、事故を起こした原発から格納容器に漏れ出た燃料を取り出すのは、世界初の試みである。 

週刊朝日 2013年10月4日号