加齢などによって上まぶたが開きにくくなる眼瞼下垂症(がんけんかすいしょう)。目を開くために普段使わない筋肉などを使うため、肩こりや頭痛を伴うこともあるという。これを患っていた、東京都に住む金子よし子さん(仮名・55歳)は手術によって症状が改善。手術やその後の経過などについて、担当した慶應義塾大学病院形成外科講師の清水雄介医師に話を聞いた。

「眼瞼下垂症の治療は手術が基本ですが、急を要したり、絶対手術したりしなければならないものではありません。しかし金子さんはものを見るために眉毛を大きく引き上げていて、人から眠たそうに見られることもあり、かなり困っていました。そこで、『挙筋腱膜前転術』という手術を提案しました」(清水医師)

 この治療は、一般的にまぶたの皮膚を切開して、ゆるんだ腱膜を短くして瞼板の適切な位置に縫い付けて固定する手術だ。術後はまぶたが開けやすくなるほか、肩こりや頭痛などの症状が改善する可能性がある。基本的に局所麻酔で、手術時間は1~2時間程度。日帰りでできる病院もある。しかし皮膚を切開するので術後2週間ぐらいは腫(は)れが残る。

 眼瞼下垂症の治療は、かつては眼瞼挙筋を切除して短縮する「挙筋短縮術」が実施されていたが、術後は瞳の動きに伴うまぶたの自然な動きが損なわれるといった難点があり、現在は挙筋腱膜前転術が主流になっている。

 金子さんは仕事を休めず、さらに接客業であることから「手術をしたことがわからないようにしたい」との希望があった。そこで清水医師は、まぶたの皮膚を切開しないで腱膜を固定する「経結膜的挙筋腱膜前転術」を実施することにした。これは上まぶたの裏側にある結膜から糸を通して腱膜を短くして固定する方法だ。手術中の出血や術後の腫れが少なくてすみ、傷痕はほどんど残らないため、手術の翌日から仕事をしても人から気づかれにくい。皮膚を切開するよりも、短時間での手術が可能だ。

「眼瞼下垂症の手術は見た目が変わるので、患者さんによっては術後に、やはり元に戻したいと言われることもあります。皮膚を切開するとどうしても傷が残ってしまいますが、結膜側から処置をする場合は傷が残らないため、糸を抜けば元通りになるというのも利点といえるでしょう」(同)

 金子さんの手術は20分で終了し、手術直後はわずかに腫れがあったものの、翌日から出勤した。「格段に目を開けやすくなった」と喜んでいるという。

 この手術は、上まぶたの皮膚がかなりたるんでいる場合は、向いていない。この場合、皮膚を切開してたるんでいる部分の余った皮膚を切除しなければ、症状が改善しにくく、結膜側からの処置ではそれが不可能なためだ。また、医師は皮膚を切開して目で確認しながらの処置ができないので、手術には経験や技術が必要になる。

週刊朝日  2013年9月27日号