作家の亀和田武氏は松井秀喜氏の引退後の去就について、こう分析する。

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 松井秀喜の引退セレモニーを生中継で観ながら(この男のファンで良かったな)と、しみじみ思った。

 中継で「球場に入ったとき、ファンの歓声が聞こえただけで、涙が出そうでした」と松井は語った。とくにどの場面でと訊かれ「ずっと泣きそうでした」。普通なら、計算ずくで喋ってるなと反発するところだ。しかし松井だと、すーっと胸に沁みてくるんだ。

 強打者、松井の引退式にあわせて「週刊ベースボール」(ベースボール・マガジン社)8月12日号は〈スラッガー特集&松井秀喜インタビュー〉の企画を組んだ。

 ヤンキース愛を素直に語る松井。でもね、名門球団に在籍した歓びを語る言葉に、味があるんだ。「ラインアップの中にある自分の名前を見て、ずっこけることが何回もありました(笑)」

 
 ジーター、A・ロッド、マツイ、ジアンビ。「おかしいよな、この並び方。スコアボードを眺めながら、俺があんなところにいるのは変だよなって。自分の後ろにはすごいバッターがいる。なんか逆じゃない? みたいな(笑)」。どこまで謙虚な奴なんだ。

 ヤンキースという球団の懐の深さ、そしてファンと選手を大事にして喜ばせるセンスも知ったセレモニーだ。スポーツ紙やアンチ巨人の夕刊紙まで“来季は巨人入閣か”と報じるが、冗談じゃない。

 メジャー移籍に怒って、背番号55も新人にくれてやり、つい最近まで、イチローのほうが指導者としても適任と放言していた巨人軍会長が、いまもやりたい放題のチームに帰ってくるわけがない。

 米国のマイナーリーグのコーチ、監督から始めて、ゆっくり本場の指導法を磨き、やがてヤンキースの監督へ。そんな奇跡を、私は夢みる。

週刊朝日 2013年8月30日号