俳優、演出家、脚本家として活躍する河原雅彦氏は、他人のレシピで料理をする女性が増えていることに微妙な気分になるとこう話す。
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意外と思われることも多いのだが、料理をするのが大好きだ。
良い気分転換になるし、なにより自分の味付けが大好き。では、「料理上手なのか?」と問われれば、そんなの完全に自己流で全然自信はないのだけど、なにせ一人暮らしの男が自分で食べる分だけを作るわけだからすべては自己責任。たとえ失敗しても、それはそれで納得がいくし、そもそも長年自分の味覚を満たすためだけに料理をしてきたのだ。そうそう目が飛び出るほど不味い味付けになるはずもない。
男性からみて「ねえ、大丈夫?」ってくらいの料理が苦手な女性は今も昔も変わらずいるとして、最近急増しているのが、「クックパッド」なるサイトにハマっている女性達だ。
これは、クックパッド社が運営するレシピコミュニティーサイトなるもので、会員登録した人達がご家庭のレシピを写真付きでドシドシ公開出来るシロモノなのだが、そのユーザー数ときたら月間2千万人以上! まあ、サイトに投稿することで料理に励むモチベーションが上がるとしたら、そのこと自体、ちっとも悪くは思わないが、よく残念に思うのは、ふと料理の話題になった際、「私、料理するよー」「へー、なにを作るの?」「クックパッドのレシピばっかり作ってるぅ。あれ、超美味しいし、超便利ぃ」なーんてことをへっちゃら顔で言い放つ女性に遭遇したときだ。なんつうかなー、人様の味覚に合わせたレシピを丸ごと使って喜んでるんじゃなく、もっと料理に対してクリエイティブであって欲しいと切に思う。あんなの、参考にするぐらいでちょうど良くない? 試しにオレも使ってみたことあるけどさー。別に驚くほど美味しいものとかなかったよ? ま、好みなんか千差万別だから、そんなの当然だよね。
自分流でいろいろ試して失敗したり、思いがけず美味しい味覚に出会えたりっていう積み重ねこそが、その人が作る料理の個性につながって、ゆくゆくはその人の味になるんだと思うの。
付き合ってる子に、「これ、クックパッドに載ってたの」って嬉しそうに料理を出されても、なんだか微妙な気分になっちゃうもの。その子としては好きな人に不味いものは食べさせたくないし、料理下手だと思われたくないっていう愛情と自尊心がそれをさせたのだろうけど、食べる側にしたら少々自分の舌に合わなくたって、作ってくれただけで十分嬉しいんだから。たとえそれがどうしようもない失敗作だとしても、「どうしたらこうなるの!?」って意外と楽しくはしゃげたりもするのさ。
つか、そういうときほど男の器が出るね。「こんなもん食えるか!」って頭ごなしに不機嫌になる男とは、それこそ別れた方が賢明だと思います。
とにかくだ。
もし、クックパッド至上主義な女が嫁になって、人様の家庭のレシピばっかり毎日食卓に並んだら本当イヤ! 食べる側はあくまでその人の味に触れていたいし、料理する側も食べる人を思いはかりながら料理をする。大切だと思うのだけど、そんな普通感覚。
※週刊朝日 2013年8月30日号