「きてます、きてます、ハンドパワー!」のセリフで一躍、人気者となったマジシャン、Mr.マリック。彼が生まれたのは岐阜市。金華山(きんかざん)の麓(ふもと)で山の中を駆けずり回る少年時代だった。
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近所に伊奈波(いなば)神社という大きな神社があり、定期的に縁日が出ていました。その中に手品のタネを売る香具師(やし)がいましてね。それが手品との出会いでした。目の前でトランプが小さくなったり、コインが消えたりするわけですから、驚きですよね。すっかり魅了され、縁日になると毎日通って、かぶりつきで見ていました。でも、向こうは手品のタネを売ってナンボですから、ただ見るだけの子どもは邪魔なだけです。「あっちへ行け!」って追い払われてね。仕方がないから、裏側に回ったんです。そうしたら見えちゃったんですよ、手品のタネが!
大のおとながなんでこんなことで驚いているんだと。こんなにも人を驚かせ、楽しませることができる手品ってすごいな、と感動したんです。自分でも見よう見まねで道具を作り、実際にやってみたりしました。でも、田舎ですから、手品の道具を売っている店はないし、情報もない。それ以上先には進めませんでした。
転機が訪れたのは中学に入ってから。本格的に手品をやっている子が、僕のクラスに転校してきたんです。写生大会のときに河原にいたらその子が石を拾ってきて、「向こう岸まで飛ばすね」と言って投げた。そうしたら、なんと石がパッと消えたんですよ。「え!?」と思った瞬間、僕の背中のほうから、「ほら」と言って、さっき投げた石を出してみせたんです。いままで仕掛けのある手品しか見たことがなかったから、何の仕掛けがなくてもできる手品は魔法のようで、本当にびっくりしました。
それからは、この少年にくっついて、手取り足取り手品の基本を教えてもらいました。彼は家がお金持ちで、手品道具もたくさん持っている。僕はお金がないから、その道具をまねて、段ボールなんかで作ったりしていました。自分で作るうちに、ここはこうしようといった工夫が生まれる。手品はアイデアが勝負ですから、この時期にこうやっていろいろ考えるクセがついたのは、後々役に立ちました。彼と出会わなければ、マジックの道に進むことはなかったでしょうね。
※週刊朝日 2012年12月21日号