尖閣諸島をめぐって対立した中国との関係は、いまだに緊張が続く。一時期の暴動は治まったものの、将来的な「チャイナリスク」を考え、日系企業の一部には「脱中国」の動きも出てきた。しかし、衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、「中国市場を捨てることは、グローバル企業として死を選ぶことと同じ」と強調する。

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 世界で稼ぐグローバル企業にとって、成長著しいアジアはもっとも重要。そして、そのなかでも中国は最重要市場です。中国の人口は13億人で、そのうち、中産階級は2億5千万人います。この階級が2020年に6億人に増えるという予測が公表されています。こうなれば、欧州の中産階級の人数に近づくのです。世界でいちばん大きな成長市場がまさにここにある。

 ファストファッションで言えば、スペインの「ZARA」、スウェーデンの「H&M」など欧米の企業も中国市場を開拓しようと必死になって競争しています。だから、今回の問題が今後の中国での戦略に影響を与えることはありません。今後は年間100店舗を出したいと思っています。

 世界で稼ぐには、中国から逃げることはできません。日本経済は成熟し、大手家電メーカーのように稼げなくなった企業も増えてきた。日本経済はもはや成長しないという人もいるようです。

 こんなときに中国を切ってしまえば、日本の「老衰」は早まるだけです。日本は「安定」を目指すという意見もよく見受けられますが、「安定」は「衰退」の前兆でしかありません。企業の将来がなければ、そこで仕事をしている人の将来もない。稼げる企業なくして、1億3千万人の日本人は、どうやって食べていくのでしょうか。

 日本人は了見の狭いことに、中国で商売をしているとすぐに「売国奴」などと非難する人が出てきます。われわれは日本の代表として、中国で作って中国で売っている。これは日本の国力が増えることと同じです。

週刊朝日 2012年11月23日号