2009年の鳥取連続不審死事件で、2件の強盗殺人罪と詐欺、窃盗などの罪に問われている元スナック従業員・上田(うえた)美由紀被告(38)。裁判員裁判で黙秘を貫く上田被告がかつて働いていた鳥取の夜の町を、コラムニストの北原みのり氏が取材した。
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美由紀は20代からこの街で働いてきたと言われている。子どもの都合等でよく休み、月給は7万円ほどだったという。スナックの仕事以外に、5人の子どもを抱えた美由紀がどのように生計を立てていたのかは、分かっていない。母子手当や生活保護を受けていたという話もない。病院の清掃員をしていた、風俗で働いていた、といろんなうわさがある。美由紀自身は、看護師を名乗ることが多かった。
美由紀が働いていたスナックで、何度かお酒を飲んだ。高い点数を出した分だけ女性の裸が見られるカラオケに、全面黒い鏡張りの壁、赤いビロードの椅子。時代が止まったかのようなこのスナックに、美由紀は2年ほど勤めていた。美由紀は豪快に飲み、軽快にしゃべり、けんかが起きた時は「おらぁ!」と声をあげ一蹴するような姉御肌で、男性客に人気があったという。
いつだったか、私が飲んでいる時、そばにいた60代男女の痴話げんかが始まり、男がいきなり女を張り倒し、テーブルに組み伏せると、胸ぐらをつかんでビール瓶を振り上げた。あっという間の出来事だった。20代の女性従業員が慣れた感じで警察に電話をした。息をのみ固まっている私と編集者に、「いつものこと」と、別の客が言い、「美由紀がいたら『やめんさい!』ってバシッ! ってタオルでも投げて終わらせたよね」、と70代のママが、教えてあげる、といった感じで私に話しかけてきた。
※週刊朝日 2012年11月16日号より抜粋