日仏両国の料理技術を学び、料理教室やケータリングを通して心を元気にする食のあり方を提案する柳谷晃子(やなぎやあきこ)氏に、健康にいいとされる「雑穀」について話をうかがった。
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近年はちょっとした雑穀流行りで、みなさんも「五穀」や「十穀」といった言葉を耳にしたことがあるでしょう。
キビの仲間の粟(あわ)や稗(ひえ)は、見ためが鳥のエサみたいですが、食物繊維やミネラルが豊富で、便秘解消や貧血予防など、体調を整える効果があります。
雑穀のいちばんの特徴は、ほったらかしてもよく育つこと。そのため、アフリカやユーラシアでは昔から食ベられ、日本にも伝わりました(ただし、稗だけは日本原産といわれています)。アフリカ生まれのパスタの原型クスクスも、雑穀を模して極小のツブツブした形になったようです。
大正中期から昭和初期にかけての日本の農家では、主食は米よりも雑穀や芋類が中心でした。「一人前の百姓はサンゴクメシを食べるもの」といわれ、収穫時期の異なる米、大麦、粟を貯蔵し、これらを混ぜて食べていました。
私が民俗学の調査をした大井川の上流、静岡市の井川では、今でも雑穀を栽培していて、稗6対粟4の「ヘーンメシ」(稗めし)が主食です。山間部での重労働に耐えるために、一人1日6合も食べるそうです。
稗は雑穀の中でも「婿だまし」と呼ばれました。洗って炊くと白くなるので白米と見間違いやすく、知恵の働く嫁は、稗をたっぷり入れたご飯でお婿さんを騙したからです。
※週刊朝日 2012年10月19日号