「彼の背中を押してあげるという意味で『何も心配いらないから。自分のやってきたことを信じて、しっかりと動いて、最後まで滑っておいで』というかたちで送り出しました」
【写真】新コーチ・ランビエルの下で新たな魅力を開花させた宇野昌磨
今季の全日本ジュニア選手権を制した鍵山優真にとって、鍵山正和氏は父であり、そしてコーチでもある。正和コーチは、ショート首位で迎えたフリーに鍵山を送り出す時にどんな言葉をかけたのかと問われ、冒頭のように述べた。
今シーズンの鍵山はジュニアグランプリファイナルに進出、またシニアの大会でも全日本選手権・四大陸選手権で3位に入り、快進撃を続けている。しかし昨年11月の全日本ジュニアは、本人と正和コーチにとり、国内のタイトルをとる大事な機会だった。観衆を魅了する見事なフリーを滑り切って全日本ジュニア王者となった鍵山の戦いを振り返り、正和コーチは安堵をにじませている。
「優真に関しては、ライバル達に較べると国内のタイトルが一つもないんですね。なので、これでやっと肩を並べてこれから戦っていけるかな、という感じではあります。だからそういう意味では、彼にとって国内のタイトルをとるチャンスだった。全(国)中(学校スケート大会)も二年連続で2位だったりしていたので『どうしてもとらせてあげたい』という気持ちは僕の中にあって、彼ももちろんそういう気持ちは強かったとは思う。それは言葉にはしていなかったんですけど、多分お互いからひしひしと感じていたところはあると思うんですよね。なので、今回は本当に良かったと思います」
タイトルをとりたい思いを共有しながらも、父であるコーチが鍵山にフリー直前にかけた言葉は勝負に関するものではなく、自分を信じて最後まで滑り切ることの大切さを説くものだった。演技に向かうスケーターを送り出す時にコーチがかける言葉には、フィギュアスケートを教える上で一番大事にしていることが自然に表れるのかもしれない。
小塚崇彦さんの現役最後となる演技は、2015年12月に行われた全日本選手権のフリーだった。小塚さんが引退を決意したのはフリーを滑り終えた瞬間だったが、試合前から「この全日本で終わりかな」という思いはあったという。