(イラスト/寺平京子)
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 週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、病院から回答を得た結果をもとに、手術数の多い病院をランキングにして掲載している。病院ランキングだけでなく、治療法ごとの最新動向やセカンドオピニオンをとるべきケース、ランキングの読み方などを専門の医師に取材して掲載している。ここでは、「食道がん手術」の解説を紹介する。

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 食道は長さ約25センチの管状の臓器で、心臓や肺に接し、周囲には血管やリンパ節が多く存在する。そのため、食道がんの手術には複数の臓器に対する知識と高い技術力が必要だ。基本の根治術は、胸部から腹部の食道をすべて切除し、頸部・胸部・腹部のリンパ節を周囲の脂肪組織ごと取り(リンパ節郭清)、胃を使って食道を再建する方法で、約8~10時間ほどかかる。

 開胸開腹手術は右胸、腹部、頸部の3カ所を大きく切開するため、からだへの負担が大きい。近年、傷口が小さくからだに負担の少ない胸腔鏡・腹腔鏡手術をおこなう病院が増えている。術後の痛みが少なく、開腹に比べ入院期間も短い。がん研有明病院の渡邊雅之医師はこう話す。

 「技術の高い病院の食道がん手術は、大半が胸腔鏡・腹腔鏡でおこなわれています。気管内挿管チューブも手術室で抜管でき、翌日から歩行可能な場合も多いです」

 2018年からロボット手術の保険診療が食道がん手術でも始まったが、実施されているのは一部の先進的な病院に限られる。10年からロボット手術を導入している東京医科大学病院の太田喜洋医師は説明する。

 「ロボット手術は緻密で正確な操作ができるので周囲臓器や神経を損傷しにくく、出血量も少ない。術後の合併症の減少、QOL(生活の質)改善など良好な結果が出ています」

 リンパ節転移がなく、粘膜下層に浸潤するI期の標準治療は手術または化学放射線療法だ。術前診断で粘膜下層への浸潤が疑われる境界例は、先に内視鏡治療で診断的に切除し、その病理検査結果に応じて追加治療として外科手術や化学放射線療法をおこなう治療もここ2~3年で増えている。

 II・III期の外科切除可能な進行がんでは、化学療法でがんを小さくしてから手術をする術前補助化学療法が標準治療だ。海外では、放射線治療を併用する術前化学放射線療法後の手術が標準治療となっており、現在、治療成績や合併症の発症率を比較する臨床試験が進行中だという。

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