私の元に駆け戻ってくれた……ゴンは。

 50メートル先のちびにも私は呼びかけた。

「こっちよ!」

 ちびはピタリと立ち止まってニコニコとこちらを振り向き、手招きしている母をしっかりと確認すると、再び走り去っていく。

「待ってー!」

 待ってくれない……我が子は。

 どこまでもどこまでも行ってしまう。

 あきらめて追いかけようとした隣に立つ夫を、

「ベビーカー見てて!」

 と制し、私は全力疾走で追いかける。

 膝と腰と肘と肩と親指の付け根と喉と尻に爆弾を抱えた夫は、ちびとぐんぐん距離を縮めて小さくなっていく嫁を見守る。

 私は、100メートル先でちびを捕獲し、11キロの弾丸を抱えて、また100メートル戻る。

 私の筋トレと持久力アップが急務だ。

 来年の今頃は一体どうなっているのか。3歳半のちびは。

 商店街で買い物していたら足元を旋風が駆け抜けて、呼び止めたらそれが、夫の手を振り切って走り出したちびだったりするんじゃないだろうか。

 そんなちびにゴンの散歩を任せたら丁度良かったんじゃないだろうか。

 本当に楽しそうに走るちび。

 身体を自由に動かせる喜びを噛み締めているよかのように見える。

 そうだよな。思いっきり走れるって、幸せなことだ。

 思いっきり身体を動かすって楽しいことだ。

 ねえわが子よ。GPSつけていい?

 この公園、東京ドーム三つ分の広さがあるってよ?

 走り盛りのお子さんをお持ちの皆様。

 夫が、有名なスポーツトレーナーさんから得た情報をおすそ分けいたします。

 夜、お風呂に45度のお湯を張り、くるぶしまで足を浸けて15分。

 これでしっかりと血を巡らせてから床につけば、翌日に疲れを持ち越さないそうだ。

 膝と腰と肘と肩と親指の付け根と喉と尻に爆弾を抱えた夫は、舞台の本番中、毎晩これをやって乗り切っていた。

 大人の階段駆け上がる我が子よ。

 どんどん進め。

 たとえ、追いかける我々の顔が引くほど必死でも。

 その代わりどうか、大きくなって思い返す時、そこんとこ笑顔に変換しておいて欲しい。

【書籍『水野美紀の子育て奮闘記 余力ゼロで生きてます。』発売のお知らせ】
『水野美紀の子育て奮闘記 余力ゼロで生きてます。』をご愛読くださり、ありがとうございます。たくさんの皆さまから本連載への反響の声、ご要望をいただきまして書籍化しました! ★Amazonで絶賛発売中!