自分の過ごしてきた人生で胸張って言えることじゃないけど、好き勝手なことやってきた。アメリカのプロレス修行もいろいろなところに行かせてもらって。俺は70歳だけど、たとえば80歳でこの世を去った人を見ると、俺もあと「だいたいこれくらいかな」とは思う。でも「悔いのないように生きよう」って思ったりするわけじゃなくてね。なんて言うのかなこのまま自分の好きなように生きていければいいな、煩わしいことがなければいいなって思うよね。生きていればいつかは必ず死ぬから、煩わしいことがないように穏やかに生きよう。それだけ気にしていれば十分だなって。昔は、どうしたいこうしたいだとかあったけど、70歳まで来ると削がれてくるよ。あの世に行くときは真っ白な気持ちになるんだろうなって想像できる。


 
 それくらいで、あとはこだわりがないんだな。本当に、今日を楽しくっていうとおかしいけど、今日一日無事に過ぎて、明日がきたら明日だなって。そんな感じだね。いままでプロレスのシリーズがあったりだとか、相撲でも年間6場所あったりで、ずっと勝負の世界に縛られていた。こだわりがなくなったというより、縛られたくないっていうのはあるよね。

 俺がいつも至福に思うのは、雨が降った日に「あぁ雨か、じゃあ仕方ない家にいよう」って家にいられる自分が優雅だって思うよ。世の中の人は嫌でも会社に行かなきゃいけないし、雨どころか電車が止まっても行かなきゃならないときもあるだろうし。俺は気楽な商売だなって、自分で自分を褒めているよ(笑)。

 ここまでずっと気張っていた、そういう気持ちはずっとあるよね。よく女房に言われたのは、「ずっとあんたは“天龍源一郎”で疲れる」って。本名の嶋田源一郎でなく、天龍源一郎でいた自分がいるのは、それはよくわかっていた。だけど、女房からはそれが疲れるって。最近は、女房も“天龍源一郎”の衣を脱いで喜んでいるらしいけどね。そんな家族には、本当に支えられていると思う。特に娘が大きくなってからは、仕事のことでも「こう思っているんだけど、どう思う?」って家族に相談すると、間違った答えは絶対に返ってこない。老いては子に従えだな。

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小脳梗塞で入院したことで日々が愛おしくなった