妊娠・出産は生命の神秘であり、産婦人科医を目指す大きな動機にもなるだろう。しかし、そこにあるのは喜びだけではない。産科を舞台にし、ドラマ化もされた『コウノドリ』。主人公を演じる綾野剛に、共感した読者は多いだろう。
ドラマでは星野源が演じる、鴻鳥のライバルであり同期の四宮春樹は、妊娠32週目の妊婦が早剥となり、緊急手術をするも術中の出血が止まらず亡くなるという過去を持つ。生まれた女の子も重度の脳性麻痺で植物状態になる。
患者に正しい情報を伝えるという義務もある。切迫早産で、推定600グラムの赤ちゃんが生まれるシーンで「障害が残るかもしれない」と医師は両親に告げる。流産し、2度目の妊娠がわかった妊婦のエコーを見た結果、心拍が確認できないとき「妊娠した女性の約6~7人に1人は流産となり、流産する確率は思いのほか高いのです」と説明する。
流産がわかったとき、母親は自分を責める。「安静にしていれば」「もっと食事に気をつけていれば」「母子手帳までもらったのに、なんで私なの」と。流産は偶然に起こることであり、何かをして防げるわけではない。だからこそ、鴻鳥は常に母親に寄り添い語る。
「いつか妊娠されたときに僕らはまた……笑顔で会えるのをここで待っています」
私たちは皆、母親から生まれてきた。卵巣や子宮は、生命のおおもとである。未来を担う子どもを産み出し、女性の健康をサポートするのが産婦人科だ。また「おめでとうございます」と患者に言える、唯一の診療科でもある。だからこそ、産婦人科医には良心と誠実さが求められるのだ。(構成/長谷川拓美)