鈴木の場合は全盛期を過ぎた小室哲哉が迷走し始め、やたらと難解化していくそのサウンドを歌うことで、ヘタウマぶりがより際立っていたものだ。上原についてはSPEED時代に目立たなかった歌唱力が、ソロデビューによって露呈。印象に残っているのは、大好きだというJUDY AND MARYのナンバーを歌うことになった際の曲紹介である。

「『小さい頃から』?『小さな頃から』? あれっ!?」

 正しくは後者なのだが、大好きな曲のタイトルすらちゃんと把握していないという不安定さ。これはその後の人生をも暗示していたのかもしれない。

■歌唱力をネタにする指原莉乃

 ところが、ヘタウマアイドルという文化は世紀が変わったあたりから、一気にすたれていく。グループ化と口パク化が進んだことで「ひとりで歌うヘタウマアイドル」など歌番組からほぼいなくなったのだ。

 道重さゆみなど、モーニング娘。のオーディションの頃は素質十分だったが、それが魅力としてアピールされることはなかった。

 こうしてみると、7年前に剛力彩芽が「Mステ」でデビュー曲を歌い踊った数分間はかけがえのないものだったと思える。昨年5月に配信された「ひとりで歌うアイドル」の記事に詳細を書いたので、興味があれば読んでいただきたい。

 そんななか、いまどき珍しく「音痴」を売りにしているのが、指原梨乃だ。昨年暮れには、テレビでAKB48時代のパフォーマンスについて、

「グループ全体で見たら歌ってますけど、私は口パクでした」

 と、発言。また、地元・九州の帯ワイド「アサデス。」のミニコーナー「指原莉乃のさしごはん」で鼻歌調の短いテーマソングを作詞作曲して歌ったりした。「♪さしごはん~」の部分がジングルとして使われているが、ビミョーなふらつき具合がじつにアイドルっぽい。

 ただ、あくまで歌唱力をネタとして使っているところは中居正広あたりのやり方と同じで、ちょっと予定調和だ。それよりは、とにかく一生懸命歌った結果、自然かつハプニング的ににじみ出る可愛さこそが、ヘタウマアイドルの真骨頂だろう。

 というわけで、冒頭で触れた森七菜みたいな歌にもっと出会いたい。それこそが、世界に誇れる日本のアイドル文化なのだから。そして、新田恵利たちのように伝説として末永く語り継ぎたいものである。

宝泉薫(ほうせん・かおる)/1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など。

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