「認知症」と聞いたときにあなたは、何を思いますか?「自分自身が無くなる」「一人歩きして周りに迷惑をかける」「愛する家族のことさえ分からなくなる」……ネガティブなことばかりが、頭に浮かぶかもしれません。
はじめまして、私は精神科医の馬場元です。老年精神医学の専門医として働いています。もちろん、高齢の方ばかりではなく、感情障害を持つ若い方など、メンタル治療においても数多くの患者さんを診てきました。
そもそもなぜ人は認知症になるのでしょうか。回避する方法はないのでしょうか。新年の今だからこそ、この疾患に関して最新情報とともに解き明かしたいと思います。
1月2~5日の4話連続になりますが、
第1話「認知症は病名ではないって本当?」
第2話「認知症の予防と治療、新薬が登場する?」
第3話「社会問題! 高齢者のうつはなぜ増えた」
第4話「今からできる! 幸せな老後にする方法」という内容でお届けします。
家族や友人、もちろん大切な自分のためにも、ぜひご覧ください。
* * *
「認知症ってどんな病気ですか?」と尋ねられたら、あなたは何と答えるでしょうか?
そもそも「認知症」はひとつの病気の名前ではありません。食べたものを思い出せなかったり,会話が理解できなかったりなど、脳内の記憶や理解,判断などをつかさどる部分の働きが低下した状態を総称した言葉が認知症なのです。
脳の病気によって一度獲得した認知機能が低下し、普段通りの生活をすることが困難になっている状態が認知症です。病院に「最近、人の名前を忘れやすくなりましたが、認知症でしょうか」と心配になって受診される患者さんもいますが、「年齢を重ねると誰にでも起きる“もの忘れ”ですよ」と答えることも多いです。
■軽度認知障害(MCI)と認知症の大きな違いは
超高齢化社会の現在、65歳以上の高齢者の4人に1人は軽度認知障害(MCI)もしくは認知症だと言われています。軽度認知障害は、「認知症になる手前」と言われる状態のため、もの忘れの症状も軽く、自立した生活を送ることができます。
では、軽度認知障害と認知症の違いは何でしょうか。DSM-5の診断基準を当てはめてみましょう。DSMとは、アメリカ精神医学会が出版している精神疾患の診断基準・診断分類です。熟練した医師によって使用されるもので、一般の人はDSMを使って安易に自己判断をすることはできません。
これを見ると、軽度認知障害の項目には「軽度の認知機能の低下があった」と記述されているのに対し、認知症の項目には「有意な認知機能の低下があった」とあります。