「試合が終わって、すぐぐらいやったッスね。『先輩、ケガしました。たぶん半月板が壊れました。もう辞めます』って言ったら、「そうか。まあ、お前がそうやって言うなら……よくやったよ』って言っていただいて。福浦さんからは『オレより先に辞めるな』ってずっと言われてたんで、それがこうやって同じタイミングで辞めることになって」

 プロ2年目のオフに“弟子入り”を志願し、多くのことを学ばせてもらったその福浦と、奇しくも同じ年に現役を退くことになった。ロッテヤクルト、そして福井と渡り歩いた15年は山あり谷ありだったが、その中では福浦をはじめ「ホントに良い指導者の方、良い先輩と出会えて、良い後輩にも巡り会えたんで、そういう意味ではプロ野球人生を通してたくさんいろんな勉強もさせてもらいました」と振り返る。

 中でも忘れられないのが金星根(キム・ソングン)氏との出会い。韓国プロ野球では多くの球団で監督を務め、野球の神様を意味する「野神」の異名を取った金氏は、大松のプロ入り時はロッテでコーチ待遇のチームコーディネーターを務めていた。

「もうむちゃくちゃ練習させられました(苦笑)。すごかったッスね。遠征に行ってもファームでも、オフになったらオフになったで朝から晩までマンツーマンで……。普通に考えたら、そこまでやってくれるコーチもなかなかいないですよ。何を思ってそこまでやってくれたかっていうところで、自分が逆の立場になってみた時に『なんとかしてやりたい』と思ってくれるだけの何かがあったのかなって思いますけどね」

 福井でプレーした今シーズンは「逆の立場」、すなわち指導する側に回ることも多くなった。コーチを兼任していたわけではなかったが「年齢的には群を抜いて年寄りだったんで、聞かれればこちらから伝えるとかっていうのは増えましたね」と笑う。

「(教える)楽しさもありましたけど、難しさのほうが大きかったです。たとえばNPBの選手なら、ある程度は感覚の共有ってできるんですよね。独立リーグの子たちってそのイメージが湧かないから難しいわけで、そういうところをちゃんとかみ砕いて、手取り足取り伝えるっていうところでは、あらためて自分の勉強にもなりました。それは(独立リーグに)行かなかったらわかんなかったですし、今後に役立つと思います」

 その「今後」は思いのほか早くやってきそうだ。リハビリ真っただ中の9月下旬、昨年まで2年間を過ごしたヤクルトのコーチ就任が、一部の報道で伝えられたのだ。15年に及んだ選手・大松の野球人生は終わりを告げたが、これからは指導者・大松として第2の野球人生を歩み出す。(文・菊田康彦)

●プロフィール
菊田康彦
1966年生まれ。静岡県出身。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身。2004~08年『スカパーMLBライブ』、16~17年『スポナビライブMLB』出演。プロ野球は10年からヤクルトの取材を続けている。

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