前頭側頭型認知症は、典型的な好発年齢が45~65歳と比較的低く、男女差は認められないことが報告されています(引用1)。脳の画像検査では、Bさんの場合もそうでしたが、名前のとおり前頭葉と側頭葉に萎縮が見られることがあります。

 特徴的な症状には、Aさんのご相談やBさんのケースでも見られたように、怒りっぽくなってしまうなど人格変化や、ルールやマナーを守れなくなる、同じことを言ったり繰り返したり、こだわりを持ってしまうというような行動上の変化があります。また、見たものを認識したり、周囲の人の心情に共感することに困難さが生じることもあります。

 一方で、記憶は比較的保たれていることもあるため、家族など周囲の支援者から認知症として疑われないケースもあります。くわえて、ご本人は障害を自覚しにくいとされており、結果的に誤解され周囲との関係が悪化してしまうことがあるように思います。

 残念ながら、前頭側頭型認知症に対する根本的な治療法は確立されていませんが、ご家族に患者本人が置かれている状況や得意・苦手な作業について理解を深めていただくことで、介護者の不安や負担を減らすことができるかもしれません。

 例えば、前頭側頭型認知症の人が何かをきっかけに興奮してしまうとき、周囲にとってはささいなことに思えることでも本人にとっては大事なこだわりである可能性があります。

 想像してみてください。自分が大切に思っていることがないがしろにされるとどうでしょうか。興奮してしまうことも理解できるような気がします。ただ、こだわりの内容や自分で抑えることができないことに対して理解を得るのが難しく、ときに本人と周囲の関係が難しくなる一因となってしまいます。

 そのような状況であることを理解したうえで、(とくに危険を伴わない行動であれば)ある程度容認して対応したり、興奮の原因となるものがあれば、そこから注意をそらせるよう本人が没頭できるような作業を勧めてみたりという対応も有用です。

 しかしながら、どうやっても周囲の支援者の疲弊が重なることもあるかもしれません。そのような場合には、デイケアやデイサービスなど、家族以外のサービスの利用を検討してもよいかもしれません。

 また、薬物治療についても、前頭側頭型認知症に伴う周辺症状で、感情や衝動を抑えられなくなってしまう「脱抑制」やささいな刺激で怒りやすくなってしまう「易怒性(いどせい)」「抑うつ状態」などに対する有効性が報告されているものもあります。例としては、うつ病の治療に用いられる選択的セロトニン再取り込み阻害薬(引用2)や漢方薬(引用3)などが挙げられます。

 Bさんのケースでも、ご本人と奥さまと相談し漢方薬を投与したところ、脱抑制と易怒性において一部改善が得られました。これらの薬物治療については、必ずしも全てのケースで効果が得られるわけではないこと、くわえて十分なエビデンスが得られていないことを改めて周知しておきたいと思います。

 このように、Bさんの診断となった前頭側頭型認知症や以前取り上げたレビー小体型認知症のように、認知症とはいえ、必ずしももの忘れが主な症状でない場合も存在します。普段と異なる様子がありましたら、一度ご相談してみることを検討して頂ければ幸いです。

【引用文献】
【1】Olney NTら. Frontotemporal dementia. Neurol Clin. 2017 May ; 35(2): 339–374.

【2】Herrmann Nら. Serotonergic function and treatment of behavioral and psychological symptoms of frontotemporal dementia. Am J Geriatr Psychiatry. 2012 Sep;20(9):789-97.

【3】Kimura Tら. Pilot study of pharmacological treatment for frontotemporal dementia: Effect of Yokukansan on behavioral symptoms. Psychiatry Clin Neurosci. 2010 Apr;64(2):207-10.

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大石賢吾

大石賢吾

大石賢吾(おおいし・けんご)/1982年生まれ。長崎県出身。医師・医学博士。カリフォルニア大学分子生物学卒業・千葉大学医学部卒業を経て、現在千葉大学精神神経科特任助教・同大学病院産業医。学会の委員会等で活躍する一方、地域のクリニックでも診療に従事。患者が抱える問題によって家族も困っているケースを多く経験。とくに注目度の高い「認知症」「発達障害」を中心に、相談に答える形でコラムを執筆中。趣味はラグビー。Twitterは@OishiKengo

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