■「自分でチャレンジングにレースを進めてくれる日本人選手が欲しい」

河野:早野さんは「東京マラソンの人」というより、二つ上の大学の先輩。その中で、マラソンがこのままでは戦えなくなってしまうと意見は一致していました。「では、どういう切り口で変えていこうか」という話になると行き詰まるポイントがいくつかありました。

西本:みなさん、実業団の監督やコーチですからね。

早野:河野君も実業団の人間として言いたいことは言えなかった。僕は言いやすい立場でした。3年間も2時間10分が切れていない時期があって、選手はどこを向いて走っているのか。そこが一番気になっていました。

河野:「自分でチャレンジングにレースを進めてくれる日本人選手が欲しいな」というのはずっと言っていましたから。そういった議論の積み重ねの中で、「東京オリンピック」というキーワードが出てきた。日本国民とすれば、「メダル=円谷(幸吉)」のイメージが強い。そこを逆手にとって「過去3大会メダルが取れない状況の中で、取れると思いますか?」と、結構辛辣(しんらつ)に今のだめな点や無理な点を挙げました。そこまでいくと、さすがに選考を考え直すことになりました。
 
 そこでメダリストがどういう経過でメダルを取っているのかを調べました。最速が森下広一(もりした・こういち)の3回目でした。別府大分毎日マラソンで初マラソン、2回目の東京国際マラソンで優勝、バルセロナで銀メダル。円谷さんは4回目。1964年にすべてのマラソンを走っていて、4本目が東京オリンピックなんです。とてつもないことをやっている。その間に1万メートルも日本記録を作っているんですよ。そういった系譜があった中で、今までのやり方だと初マラソンでも代表になれるんですよね。

■"森下パターン"。強化と選考をセットにした新しい仕組み

西本:「オリンピックに連れて行きたい選手」の条件はありますか。

河野:「勝負強さ」「安定性」「オリンピックにおける緊張下でも力を出せる」。そして「日本記録を書き換えられるような選手でなければだめだ」という話が出てきました。そのときには日本記録を突破した選手に1億円の褒賞金を出す、日本実業団連合「Project EXCEED」が立ち上がっていた。そこで大会自体を強化と選考が一緒になる仕組みにできないかと考え始めたのが、MGCという新しい形でした。規定の大会を1回は走らないとMGCに出られない。MGCを勝ち取らないとオリンピックに行けない。これで最速の"森下パターン"を作れます。

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