がん患者で写真家の幡野広志さん(右)と京都大学大学院特定准教授の大塚篤司医師(左)(撮影/横関一浩)
がん患者で写真家の幡野広志さん(右)と京都大学大学院特定准教授の大塚篤司医師(左)(撮影/横関一浩)
(左)幡野広志(はたの・ひろし)写真家。2017年に多発性骨髄腫を発病し、余命宣告を受ける。(右)大塚篤司(おおつか・あつし)京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医。がん治療認定医(撮影/横関一浩)
(左)幡野広志(はたの・ひろし)写真家。2017年に多発性骨髄腫を発病し、余命宣告を受ける。(右)大塚篤司(おおつか・あつし)京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医。がん治療認定医(撮影/横関一浩)

 多発性骨髄腫で余命宣告されたがん患者であり、写真家の幡野広志さんと京都大学大学院特定准教授・大塚篤司医師の対談企画、第2回。

【写真】大塚医師とは大学の同級生。小説『神様のカルテ』著者の夏川草介さん

【第1回「僕たちには医療不信のベースがある」悪循環を断ち切るためには?】

 幡野さんは「なぜ医療現場では医者も患者も本音を言えないのか?」というテーマで大塚医師と議論を開始。「医者は患者ではなく家族のほうを向いて治療を決めてしまいがち」という大塚医師の指摘に対し、「家族のためにも、自分が望む治療をしたい」と幡野さん。本音を言えない理由のひとつは、家族関係がカギになっているようだ。

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■医者の目、家族の目にとらわれる患者

大塚篤司(以下、大塚):いままで医療現場には、患者は医者や家族の意向をくんで治療を受けるべきだという理想の患者像がありました。幡野さんはそれを「優しい虐待」と表現していますね。それは患者にとって迷惑だと初めて言ったのが幡野さんだと思うんです。

幡野広志(以下、幡野):そうみたいですね。ほかのお医者さんにも「初めてがん患者の本音を聞いた」と言われることがあります。でもがんは40年ぐらい前から日本の死因トップで、年間約100万人が罹患して40万人ぐらいが亡くなっているわけですよね。ということは、がん患者はずっと口をふさがれてきたのだと思うんです。

 でも同世代の若いがん患者さんと話すと、僕と同じことを言っている人もいます。たぶん「あるある」なんですよね。しかし「本音は言えない」と言っていました。人の目を気にしてしまう。

大塚:その人の目というのは、家族とか友人の目ですか? 医者も含めてですか。

幡野:……医者も含めてでしょうね。ただでさえ孤独感を持っているのに、医者に対して自分の主張をすることで嫌われたくない、という気持ちがあると思います。

 あと、家族の中では「自分はお荷物だ」という感覚を持ってしまうのもあるでしょう。どうしても自分のせいでお金の負担も増えるし、病人なわけですよね。「家族の言うことを聞かなければ」と、迷惑をかけられないという感覚に陥っている人が多いと思います。

 極論ですが、人の目を気にせず生きてきた人は、最後も人の目を気にすることはないと思うんです。逆に言えば、人の目を気にして生きてきた人は、最後まで人の目を気にしてしまう。そういう印象がぬぐえない。人の目を気にして亡くなっていった患者さんは、この40年でかなりの数いたんだろうなと思いますね。

大塚:幡野さんは最新の著書『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』で家族関係について言及していますよね。場合によっては親と縁を切ってもいい、とまで言っています。

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「医者としての姿勢が変わりつつある」(大塚)