大韓航空は、韓国・釜山と札幌を結ぶ路線を9月3日から運休する方針を明らかにした。日韓関係の悪化を受けて、日本旅行の予約数が減っていることが理由と思われる。18年に日本を訪れた韓国人の旅行消費額は中国の次に多く、5881億円(観光庁「訪日外国人の消費動向」)。それが19年に入ってから韓国人観光客は減っていて、19年1~6月は前年比3.8%減の386万人となっている。輸出管理の強化で7月以降はさらに悪影響が出ることが予想される。政府は2020年に訪日旅行者を4000万人に増やす計画を掲げているが、目標達成の逆風となっている。

 悪影響は経済だけに限らない。韓国に対する強気の姿勢は、安全保障にも影響が出始めている。北朝鮮国営の朝鮮中央通信は7月31日、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)について「早期に破棄されなければならない」とする論評を配信。GSOMIAは8月末に更新期限が迫るが、韓国側も継続の見直しを示唆している。

 ここまで韓国が強気に出ているのも、文大統領の対日強硬策が国内で評価されているからだ。文政権の支持率は、7月に7カ月ぶりに50%台を回復。韓国与党の「共に民主党」のシンクタンクは7月30日、「日韓対立への強硬対応が来年の総選挙のための好材料になる」と記された報告書を同党の議員に送信していた(後に「不適切に配布された」と弁明)。文大統領が、政権基盤を安定させるために“戦略的”に日本への強硬策をとっていることをうかがわせる。

 国内向けのアピールだけではない。徴用工問題をはじめとする戦後賠償の問題についても、文政権はあるシナリオを描いているという。JAROS21世紀フォーラムの服部年伸氏は、こう話す。

「安倍首相は現在、金正恩との会談を求めていますが、日朝交渉をすれば、北朝鮮は2兆円ともいわれる戦後賠償を求めてくると言われています。年内には朝鮮半島非核化への長期的なロードマップが米朝間で締結される可能性もありますが、トランプは経済支援を米国で負担するつもりはない。徴用工や慰安婦の問題で日韓関係が悪化することは、韓国を中国寄りにシフトさせ、中国・韓国・北朝鮮という連合を生み出すことにつながりかねません」

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まさかの南北協調で戦後賠償交渉か