※写真はイメージです(写真/getty images)
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 長年連れ添ってきた夫婦なのに、年老いてきて、夫の様子がおかしい。急に怒りだしたり、被害妄想があったり……。妻は不安を感じることになります。千葉大学病院精神神経科特任助教の大石賢吾医師が自身の診療経験をもとに、相談に答えます。

【70代女性Aさんからの相談】夫のことで相談です。どちらかというと穏やかなほうだったのですが、最近なにかとイライラするようでいつもブツブツ文句を言っています。先日は、「庭に置いてあった鍬(くわ)を盗まれた」と言って、お隣の家に怒鳴り込んでしまったことがありました。結局、鍬はうちの庭で見つかり、お隣にはおわびしたのですが、長い付き合いなので夫のこともよく知っていて、あまりの形相に驚かれて逆に心配してくださいました。私に対してもきつく当たることが多く、子どもに電話で相談したら一回病院に連れて行ってみたらと勧められました。何かおかしいのでしょうか。

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 穏やかだったご主人がよく知った仲の隣人を泥棒呼ばわりしてしまう。しかも、疑うだけでなく実際に怒鳴り込んで行くさまを目の当たりにするのは心配になって当然だと思います。電話で話を聞いたお子様もびっくりされたのではないでしょうか。

 ご心配される一方で、つらく当たられてしまうAさんのご心労も相当なものとお察しします。ぜひ一度受診してご相談いただければと思うのですが、ご主人は応じてくださるでしょうか。実際には、Aさんのように困ったご家族から説得されて来院されるケースを比較的よく経験します。

 しかしながら、受診が遅くなるほど、ご本人・ご家族双方に疲労がたまり、状況も難しくなってしまう傾向にあるように思います。今回は、私が外来で経験したケースをご紹介することで、Aさんも含め、似たような境遇におられる読者の方へも受診のきっかけになればと思い、取り上げさせていただきました。

 一つ目のケースは、Aさんのご相談と同じように「留守の間、隣の人に骨董(こっとう)品やらを盗まれている」と話されていた70代女性のB さんです。娘さんが付き添って受診してくださったので、本人の了解を得てお話を伺うと、どうやら盗まれている事実はないようでした。

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受診につなげる方法とは