わん丈さんは滋賀県の出身。小学生のときに琵琶湖のごみ拾いを経験し、水辺の自然環境に関する問題意識があった。

「海の落語を子どもたちに披露するときは、『落語は難しくない』ことを分かってもらい、『この先はどうなるんだろう?』と最後まで集中してもらうことを心がけています」

 落語で環境問題を扱うことの意義については、こう語る。

「寄席の醍醐味はライブですから、物語を頭のなかで想像し、世界を自分なりに創造できること。テレビや本と違って反復できないから不親切な面もありますが、そのぶん集中して考えられるので、海洋問題をしっかり心に刻むことができているのではないでしょうか」

 この日は落語に続き、環境の専門家である井手迫義和さんが、「なぜマイクロプラスチックが海洋を汚染するのか」を具体的な数字を示してわかりやすく説明。児童たちが飽きる間もなく、約80分の授業が終了した。

 感心したのはここからだ。教室に戻った6年1組の児童たちは、木村先生が「今日の落語はどうだった?」と聞くと、次々に意見を述べ始めた。

「テレビよりも迫力があった」「落語家さんって想像力が豊か」「面白いから記憶に残る」「座布団を持っていきたかった」「それは大喜利だよ!」などと寄席に対する感想から始まり、
「海にごみを捨てることで魚が食べてしまう」「その魚を人間が食べることで自分に返ってくる」「ごみをポイ捨てしない人も食べてしまうのは不公平」「魚だって迷惑」など、海洋汚染に関する議論は熱を帯びてきた。

 木村先生は「そうだね」「なんで?」と問うことに徹し、子どもたちの意見をていねいにくみ取って板書する。そして「身近なものにプラスチック製品はあるかな?」と聞くと、子どもたちは持っている文具類を一斉に机に並べた。そんなに海を汚すのなら、プラスチック製品を作らせず、使うこともやめればいい――。それが単純にできないことを、児童たちは実感する。先生が一方的に教えるのではなく、自分で考えて主体的に学ぼうとする、まさにアクティブ・ラーニングのお手本だ。

 海洋問題をテーマにした落語による出前授業は今年度、30校の小中学校で開催される予定だ。(文/アエラムック編集部・杉澤誠記)