職場での充実度は、私たちのメンタルにも大きく影響します。ときには、人間関係など一人では乗り越えるのが難しい状況に直面してしまうこともあるでしょう。そんなとき、支え合える仲間ほど心強いものはありません。特に、Aさんのご相談にもある同期仲間は距離も近く、良好な関係を築くことができればかけがえのない存在になるものと思います。そしてそれは、同僚がアスペルガー症候群だったからというだけで、必ずしも成し得ないということではないと思います。ただ、周囲の皆さんの理解や協力がアスペルガー症候群の人にとってより安定した生活を送り、持っている能力を発揮できるためのかけがえのない一助になることは間違いありません。
私が診療に当たった患者さんのなかには「自分の気持ちをどう言えばいいかもわからないし、誰にも相談できませんでした」と打ち明けてくださった人もいました。アスペルガー症候群と称される人は、あいまいな言葉の意味を理解することが苦手な場合があります。本人が困っていそうなところを察し、わかりやすい表現を用いて共感することで、コミュニケーションがスムーズに進むかもしれません。最後に、アスペルガー症候群かどうかの判断は、専門家による適切な評価が不可欠であることを改めて確認し終わりとしたいと思います。
<注:本コラムを寄稿するにあたり、以下の2点について共有しておきたく思います。(1)Bさんがアスペルガー症候群に該当するかはわかりませんが、相談ですのでそうであると仮定してお話ししています。(2)アスペルガー症候群を含む発達障害の分類については、現在も継続して議論されていて必ずしも理解が一致しておりません。診断名についても診断自体が変わるわけではありませんが、事情によって求められる区分水準が異なり、適切な呼び方が変わる可能性もあります。実際に分類や診断の扱いには専門的な知識を必要としますので、今回のコラムではその部分は焦点としていません。そのような事情があることをご理解いただき、病名が一人歩きしてしまい個人に不要な負担が及ぶ事態とならないことを願います>
○大石賢吾(おおいし・けんご)/1982年生まれ。長崎県出身。医師・医学博士。カリフォルニア大学分子生物学卒業・千葉大学医学部卒業を経て、現在千葉大学精神神経科特任助教・同大学病院産業医。学会の委員会等で活躍する一方、地域のクリニックでも診療に従事。患者が抱える問題によって家族も困っているケースを多く経験。とくに注目度の高い「認知症」「発達障害」を中心に、相談に答える形でコラムを執筆中。趣味はラグビー。Twitterは@OishiKengo