一方で、日本が歴史とどう向き合うかは、日本の問題です。私が外務省にいた時は、日本統治時代にサハリンに行き、終戦とともに日本国籍を失い保護されなくなった在サハリン韓国人の韓国帰国を実現し、被爆者援護法の対象外だった日本の国籍を持たない被爆者が日本国内で治療を受けられるよう旅費を支弁しました。在日韓国人・朝鮮人の指紋押捺問題に取り組んだりしました。これらは、相手国から言われる前に、人道的見地から日本が率先して実施しなければならなかったことです。言葉だけで謝罪を示すだけではなく、具体的に行動していくことが大切なのです。
そういった行動をせずに、言葉の応酬を繰り返しても日本の国益を阻害するだけです。少なくとも、日本としては過去の歴史への反省は認識し、慎重に言葉を選んだうえで対応することが必要です。
──激しく対立しても、日本と韓国は切っても切れない関係にあると。
そうです。過去もそうであったし、未来にわたっても日韓関係が重要であることは変わりません。
では、どういった手法を用いて、朝鮮半島を日本にとって安全な地域にするか。過去は、朝鮮半島を支配することで権益を担保しようとした。しかし、今の時代に戦争などできません。となると、同じ民主主義国家として日本、韓国、米国が良好な関係にあることが、安全保障上の最低限の条件となります。
日本人が今日、ゴールポストを動かし続ける韓国に対して怒りの気持ちがあるのは理解できます。それでも、それを乗り越えて「日本にとって朝鮮半島とはどういう地域なのか」ということを念頭に行動しなければなりません。
──今後、日韓関係は修復できるのでしょうか。
文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領は市民運動家出身で、現在は韓国外交部の意見よりも青瓦台(韓国の大統領官邸)中心で外交が動いている。かつてであれば、韓国の外交部は日韓関係を重視していましたが、これが難しいところです。また、日本も安倍官邸一強体制の中で、外務省の影響力が落ちている。これまでの歴史で積み重ねてきた「日韓共通の利益」の認識が両国で共有できていません。