彼は、それまでの徒弟制度を廃して現在に至るレジデントトレーニングシステムを全米で初めて開始したため、この「新設医科大学」の名は全米に広がり、内科学のウィリアム・オスラー、 婦人科学のケリー、病理学・細菌学のウェルチ(ガス壊疽の原因菌であるウエルシュ菌の発見者)とともに、ジョンズ・ホプキンス大学の四大偉人(Big Four)と呼ばれるようになった。

■手洗いと手袋

 19世紀も末のこのころ、1840年代から60年代にかけて、ゼンメルワイスやリスターが提唱した手洗いと手術野の無菌法は、パスツールやコッホによる細菌学的裏付けをへて世界中に広がっていった。それまでは肉屋同様に血よけの前掛けをしていた外科医が、術着(白衣とマスク、帽子)を被り、患者の術野を滅菌布で覆うようになったが、相変わらず医師の手に対しては十分な手洗い以上の配慮はされていなかった。

 これを変えたのがジョンズ・ホプキンス大学病院の手術部で器械出しを担当していた看護師キャロライン・ハンプトンである。

 外科医長としてハルステッドは日々、手術に追われていたが、キャロラインは非常に優秀で、医長執刀の手術には欠かせない存在であった。しかし、キャロラインは皮膚炎に悩まされ、婦長に勤務替えを申し出た。当時、手袋の使用は稀で素手で手術をしていたため、医師、看護師とも手術前の昇汞(しょうこう・塩化第2水銀)による手洗いが必須であった。しかし、昇汞にはかなり強い皮膚刺激作用がある。

 彼女の助けなしに、手術成績を維持できないと考えたハルステッドは、タイヤメーカーであるグッドイヤー社に依頼して薄いゴム製の手袋を作らせた。この手袋は大好評でジョンス・ホプキンスのみならず、全米そして全世界の外科医や産婦人科医さらには、患者の血液や体液に触れる可能性があるあらゆる医療職に広まっていった。さらに 医療のみならず研究の世界でも、感染性検体や有毒物質から手を守るため、あるいは手についている分解酵素から検体を守るために、世界中どこのラボでもルーチンに使用されている。

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