そしてもう一つのポイントは、夫は義母の質問を無視したけど、郁美さんは苦手とはいえ頑張ってコミュニケーションを取ろうと、小さなウソをついてでも会話をしました。同じように考えれば、夫は郁美さんと頑張ってコミュニケーションを取ろうとしているらしいのです。そうでなければ夫は無視するはずです。
自宅に帰って、その話をしてみました。
「私、お義母さんが『なぜ』と言うと、何か怒られているみたいで、ドキッとしちゃったのだけど、あなたは大丈夫なの?」
と夫に聞いてみると、
「長年一緒にいたから慣れた」
と言います。つまり、ドキッとするわけです。もう一つ聞いてみました。
「私に小さなウソをつくときも、ドキッとしてるからなの?」
「だって、そういう時、君、怒っているだろ?」
つまり、夫は、自分が失敗した事実を指摘された時、郁美さんが怒っている、と条件反射的に感じるわけです。郁美さんは、あの環境で育ったらそう感じるようになるのも無理はないし、それなのに自分(郁美さん)にはコミュニケーションを取ろうと頑張ってくれているんだな、と心底思いました。ウソはいやだし、それですべてが許せるような気持ちになるわけではもちろんないけれど、何ともならない重い気持ちを感じ、ああ、これが夫の人生の重みなんだなと感じました。
そんな話をすることを通じて、郁美さんは夫がまたウソくさことを言っているなと感じた時に
「あ、怒られたように感じた?」
と冷静に聞くことができるようになりました。そうすると夫も
「あ、そうだった。怒っている?」
と確認できるようになり
「怒ってないよ」
「そっか、ごめん、本当は○○だよ」
とやり取りを修正できるようになりました。
人は、自分が育った家庭での経験から、自分が最も傷つかなかったり、より多く褒められたりするコミュニケーションの仕方を身につけます。しかし、それがパートナーとの間でも最適であることはほとんどありません。
自分の親との関係性を、自分のパートナーにも無意識に適用してしまう現象は、心理学の学派ごとにいろいろな概念で説明されますが、逆にいえばそれほど普遍的なことです。
夫婦がうまくいく秘訣は、パートナーと親は違う人なので、違う戦略を見つけることにあります。普遍的にうまくいく戦略というのはありませんので、2人にとってよい関わり方を見つけていくしかありません。
年末年始には、そんな観察とそれに基づいた話し合いをしてみてはいかがでしょうか。(文/西澤寿樹)
※事例は事実をもとに再構成しています