「だって帰り道、コンビニ何件もあるじゃない」
と言えば、夫は
「最後の店で気がついたから」
と言い、
「だったら、電話して他のでもいいか聞いてくれればよかったじゃない」
と言えば、
「ああ、でも豆乳もあるからいいかと思って」
などと、言います。嫌な気持ちになるだけだとわかっていても、抑えが利かなくなってきて、以前よりもこうしたやり取りが長くなってきた気がします。
「ごめん、忘れてた」と言ってくれれば、どれだけすっきりするかわかりませんが、結婚以来そんなことを聞いた記憶がありません。
そんなストレスが高まっている中、郁美さん夫婦は年末に夫の実家に帰省することになりました。
夫のお母さんは中学の校長先生で、お父さんは体育の先生。基本的にはいい人たちなのですが、ちょっと威圧的な感じがして、郁美さんは最初に会ったときから本当のところ少々苦手です。夫は朗らかな人なので、なんでこの両親のもとで育って、こんな朗らかな人になったんだろうと思っていました。
今回帰省して、気付いたことがありました。両親とも、自分の意に沿わないことがちょっとでもあると、「なぜ?」と言うのです。例えば、刺し身が出たのに醤油が食卓に用意されていなかったら、義父は
「なんで醤油がないんだ?」
と言いました。そうすると義母は、何も言わず黙って醤油を出しました。気になり始めると、そういう発言がやたら多く、郁美さんは「何で」が出るたびにドキッとしました。そんな中、義母が
「何で、もっと早い時間に来られなかったのかしら?」
と郁美さん夫婦に言いました。郁美さんはどぎまぎしてしまいましたが、夫は無視しているので郁美さんが
「すみません。ちょっと、年内に片づけておかなければならないことがいくつかあって……」
と答えました。
あ、これだ!と郁美さんは気付きました。本当は、年内に片づけておかなければならない問題なんて別に大したことではなく、その気になればもっと前に終わらせておくこともできたし、年明けでもかまわないことです。本当は、夫の実家が苦手なので、わざとゆっくりいったのです。つまり郁美さんも、夫が郁美さんに使う小さな言い訳やウソと同じことをしていたのです。