そこに、平石の“秘めた狙い”がある。


 
「それぞれが、いいようになるように、こちらがうまくやりたいですね」

 俺の言うことを聞け。そうでないと、お前は使わん。そんな前近代的な押しつけ型の指導ではない。それぞれのタイプに応じ、合う指導者のアドバイスを取り入れてくれたらいい。そうした選手の自主性を重んじるスタイルだ。

 だから、コーチ陣は、ケージの後ろでじっと見守り、選手たちが何かを尋ねたときに初めて、手取り足取りの指導やアドバイスが始まる。

「こいつね、はまったらすごいことになると思うんです」

 そう言って、平石が紹介してくれたのは外野手の岩見雅紀だった。昨年のドラフト2位で慶大から入団。2017年には、シーズン12本塁打の東京六大学リーグの新記録を達成。した体重108キロの大砲候補だが、プロの壁にぶち当たったルーキーイヤーは、1軍12試合、24打席でヒットを1本も打てなかった。

「金森さんから『分からんかったら、分かりません、できませんと言え』といわれています」と岩見は明かした。つまり、質問をぶつけ、理論をぶつけ合う中で、成長のきっかけを、互いに見つけていこうというわけだ。

「それでいいんです。悩んでくれたらいいんですよ。それで後々、こういうことで自分は悩んでいたのかというのが、分かってくれたらいいんです」

 平石は、そうした濃密なやりとりが生まれることを歓迎している。打撃練習でも、平石自らが打撃投手を務めるシーンもあった。それが、若き監督ゆえの行動力でもあり、年齢が近い分だけ、選手との“心理的な距離”もまた近い。

 10月のドラフトでは1位に立命館大・辰己涼介、7位でも立正大・小郷裕哉と、2人の即戦力候補の外野手を獲得した。さらに巨人から金銭トレードで獲得した橋本到は、地元・仙台育英高出身でその俊足には定評がある。外野手を着々と補強している現状に、危機感を持ち始めたのが来季4年目を迎えるオコエ瑠偉。かつてのドラフト1位も今ひとつ、殻を破り切れていない現状がある。それを自覚しているからだろう。平石にこう尋ねてきたという。

「監督、なんで外野2人も指名したんですか?」

「なんやお前、自信ないんか?」

 そんな質問ができる関係性、そしてやりとりの中に、平石の“目線の低さ”が見えてくる。

「僕らが見てきて、3年前と比べたら、オコエもだいぶ変わってきました。でも、まだぬるいですけどね」と笑いながら「外野は激戦ですよ」と引き締めるのも忘れない。

次のページ
もう一人のPL戦士も監督に