さて、インフルエンザの予防には、日々の手洗いうがいと予防接種が欠かせませんが、インフルエンザに感染してしまった場合、どうすればいいのでしょうか。
こまめに水分を摂って、ウイルスの侵入経路である喉を潤し、よく休んで体力を回復させ、ウイルスを増殖させないようにし、軽いうちに自力で抑え込むことが大切です。併せて大切なのが、人にうつさない行動をとる、つまり自宅で休養することです。
CDCは、65歳未満のハイリスクでない成人は、検査も治療も必要としません、と言います。インフルエンザが疑われるときは、息が苦しい、意識がおかしいといった状況でない限り、早期の受診を促すのではなく自宅療養でいい、ということです。ほとんどの人は、抗インフルエンザ薬の使用の有無に関わらず、5日から7日ほどで軽快します。
喉が痛い、熱が出た、節々が痛い、体がだるい……そういった症状が出たら、何かしらのウイルスが体に侵入して闘っているということを意味します。それが、インフルエンザウイルスなのか、風邪のウイルスなのか(場合によっては細菌感染もあります)、軽症の場合、区別はつきません。
「インフルエンザかどうか、検査してください」と、外来を受診される方もたくさんいらっしゃいます。すぐに結果がわかるものの、鼻の中に綿棒を入れ、鼻の粘液をとってインフルエンザかどうかを判定する迅速検査は、痛くて辛い検査ですよね。カナダのモントリオール大学の報告によると、感度(インフルエンザに罹患している人の中で、検査が陽性である人の割合)は62%、特異度(インフルエンザに罹患していない人の中で、検査が陰性である人の割合)は98%。実は、陽性が出ればインフルエンザであると確定できるのですが、陰性であったとしても、インフフルエンザではない、とは言い切れない検査なのです。
最後に、インフルエンザについての興味深い知識を一つ。
ニューヨークにあるコロンビア大学が1975年から2008年にかけて40カ国78都市で調査した結果、インフルエンザウイルスは、乾燥していて寒い気候を好むだけでなく、湿度が高くて雨が多い気候も好むことがわかっています。実際に、一年を通して気温が高い東南アジアでは、雨季にインフルエンザが流行しているのです。日本でも、東南アジアと同様に、亜熱帯に属している沖縄では、夏にもインフルエンザが流行しています。温暖化が進めば、今後、本州でも夏にインフルエンザが流行する、なんてこともあるかもしれません。
もうすぐに迫ったインフルエンザの流行に備えて、しっかり予防をしてくださいね。
◯山本佳奈(やまもと・かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)