
いつもと、違うことをする。
その決断に至るには、データや結果の裏付けはもちろんだが、相当な勇気と、あらゆる迷いを断ち切ることが必要になってくる。試合前、ソフトバンク監督・工藤公康が「苦渋の決断」と表現した大胆な「スタメン変更」は、この試合への覚悟と、絶対に勝つという執念の表れでもあった。
松田宣浩を、スタメンから外す--。
打順の昇降はあったものの、レギュラーシーズン142試合のスターティングメンバーに「5 松田」と記されていた。今クライマックスシリーズ(CS)でも、日本ハムとのファーストステージでの3試合、さらにファイナルステージのここまで2試合も、当然ながら松田がサードのレギュラーだった。
鷹の背番号「3」は、試合が始まるときには、必ずグラウンドにいる男なのだ。ホームランを打って、ダイヤモンドを一周し、ベンチに戻って来ると、ファンとともに右手を突き上げて「熱男」と叫ぶ。いまや、ソフトバンクの名物となったそのシーンを見ると、チーム内外に貴重な一体感を生み出すムードメーカーとしても、35歳のベテランは不可欠な存在でもあるのだ。
しかし、今CSで松田のバッティングは明らかに精彩を欠いていた。ファーストステージが始まると、まず9打席無安打。3試合目の10打席目に飛び出した初安打がホームランだったが、結局ファーストステージ3試合で12打数2安打の打率.167。ファイナルステージの西武戦でも、最初の2試合で9打数2安打の打率.222、しかも4三振を喫するなど、完全にブレーキ状態だった。
1勝2敗で迎えた第3戦。負ければ、西武に日本シリーズ進出への王手をかけられてしまう。初戦は10点を奪って快勝、2戦目は西武に13点を奪われての大敗。今ステージの流れを見れば、西武相手には「打」で活路を見いだし、打ち勝たなければならない。そこで指揮官が選択したのは、このファイナルステージでおよそ2カ月ぶりに1軍へ昇格し、17日の初戦でヒットを放つなど復調気配を見せている内川聖一を8月14日以来のスタメン起用することと、ここまでのCS5試合で19打数7安打の打率.368と好調のジュリスベル・グラシアルを、松田を外したサードに抜擢することだった。