そう振り返った工藤は大胆な選手起用だけでなく、6点リードの5回には、内川が左前打で出塁すると、8番の西田哲朗には送りバントを指示している。大量得点差での送りバントはメジャーなら「相手に恥をかかせる」とまで言われる、いわばご法度の一手だ。その“不文律”を犯してでも、工藤は1点でも多く、徹底的に奪いにいったのだ。

 さらに5回で12-1となると、工藤は先発の千賀を5回で降板させた。投球数は78。これなら、仮に3勝3敗となった場合の22日、最後の第6戦で千賀を中2日でリリーフ投入することも可能になってくる。試合後、報道陣から「あの球数は先のことも踏まえて?」と問われた工藤は、きっぱりと「はい。もちろんです」と答えている。

 残る4イニングも、リバン・モイネロ、ルーキー左腕の大竹耕太郎、この日から1軍合流の195センチの長身ルーキー・椎野新の3人で楽々と乗り切り、加治屋蓮、森唯斗ら勝ちパターンの救援陣を休養させることもできた。

 これで2勝2敗のタイ。20日の第4戦を制した方が、先に日本シリーズ進出に王手をかけることになる。まさしく、この先の行方を左右する大事な一戦だ。ファイナルステージの3試合、西武のチーム打率.270に対し、ソフトバンクは.342。得点も、西武の「21」に対してソフトバンクは「30」と、今季のレギュラーシーズンで3勝9敗と、苦杯をなめ続けてきた敵地・メットライフドームで宿敵を強打で圧倒し続けている。

「まだタイなんでね。残り3試合で、2試合勝った方が勝ちというところで、やっと並んだだけ。優位になったわけではないので、しっかり勝てるように頑張ります」

 指揮官は自らに言い聞かせるようにそう語ると、帰路につくチームのバスに乗り込んだ。セ・リーグのファイナルステージは広島が3連勝で巨人を下し、早々と決着がついた。これとは対照的に、パの頂上決戦は一進一退の様相。戦いはまさしく、ここから佳境を迎える。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。

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