では、子どもの夜泣きを改善するためのトレーニングが、愛着形成を阻害することはあるのでしょうか? この問題に答えようとして、研究も行われています。

 オランダ・ライデン大学の研究者が2000年に発表した論文があります。赤ちゃんがいる家庭50件を、生後3週間から9カ月まで3週間ごとに訪問して、泣きの様子や親の対応を観察しました。そして赤ちゃんが1歳3カ月になったときに愛着パターンを評価しました。すると、回避型の子は、安定型や抵抗型の子よりも、泣いたら親がすぐに反応してあやす傾向が強かったことがわかりました。

 さらに2009年、デラウェア大学の研究者は、ちょうど1歳の子ども44人を対象に行った研究結果を発表しました。子どもが寝ているときの様子や親との関わりを3日間ビデオテープで撮影し、その後の実験で子どもの愛着パターンを評価しました。すると、夜泣きに全く反応しない家庭とその他の家庭を比べても、子どもの愛着パターンに有意な差はありませんでした。また、あやし方のバリエーションが多く一貫性がない家庭の子は、有意な差ではないものの、不安定な愛着パターンを持つことが多かったのです

 これらのことから、夜泣きに反応してすぐ抱き上げなくても安定した愛着形成に問題はなく、むしろ一貫性を持った対応をすることが大事である、ということがわかります。夜泣きや寝ぐずりといった睡眠の問題を抱えている場合、泣いてもすぐ反応しない「ねんねトレーニング」を行うことが、愛着形成に悪影響を与えるとは言えません。

 そもそも、愛着形成とは子どもに対する夜中の反応の仕方だけで決まるものではなく、生活全体を通して育まれるものです。夜中に親が敏感に反応しなくても、日中に子どものニーズを汲み取って反応し、十分なスキンシップを持つことが大切です。夜泣きにすぐに反応することによって、親が睡眠不足になり、日中の関わりの質が低下するとしたら、それこそ本末転倒になってしまいます。

 また、親の過剰なサポートは、子どもの自主的な行動や、様々なスキルを試す機会を奪ってしまいます。赤ちゃんが泣いているからといって、必ずしも赤ちゃんが抱っこを求めているとは限りません。「泣いたらすぐに抱っこ」ということだけにとらわれず、一度立ち止まって、赤ちゃんがなぜ泣いているのか、どうやったら赤ちゃんのニーズを満たしてあげられるのかを考えてみてください。

(※1) 岡田尊司『愛着障害~子ども時代を引きずる人々』光文社新書

◯森田麻里子(もりた・まりこ)
1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表

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