ところが、「よっしゃあ!」とハイになった新井は、なんと、スリーアウトチェンジと勘違いして、ベンチに戻ろうとするではないか。

　思わぬハプニングにスタンドは騒然。ベンチ最前列の控え選手たちが一斉に指を2本立てているのを見て、ようやく気付いた新井は、照れくさそうに守備位置へと戻っていった。

　だが、この勘違いが、皮肉にも試合の流れまで変えてしまう。マウンドの岡田は、“新井劇場”で緊張が緩んでしまったのか、2死無走者から大島洋平に右前安打を許すと、ゲレーロに中前先制タイムリー、次打者・福田永将にも左中間2ランを浴びるなど、一挙4点を失い、お気の毒にも負け投手になってしまったのだ。

　自らのチョンボが岡田のリズムに影響を及ぼしたことを自覚していた新井は、守りながら、「頼む。抑えてくれ」と祈るような心境だったそうだが、オフに出演したテレビ番組でも、「あっという間にボコボコ打たれて点入って、ちょっとショックだったですね」と申し訳なさそうに回想していた。

　こんな愛すべきキャラクターのプレーする姿を目の当たりにできるチャンスも、残りわずかとなった。“新井さん”のことだから、きっと最終試合でも、“伝説”のフィナーレを飾るような最高の見せ場を作ってくれるはずだ!

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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