60年代に活躍した女性監督がモデル/「オマージュ」シン・スウォン(2021年) (c)2021 JUNE FILM All Rights Reserved.
60年代に活躍した女性監督がモデル/「オマージュ」シン・スウォン(2021年) (c)2021 JUNE FILM All Rights Reserved.

■知るきっかけを作る韓国映画、女性監督の提示する“視点”

 今年日本公開作の一押しは「オマージュ」。「パラサイト 半地下の家族」の家政婦役で注目を浴びた演技派イ・ジョンウンが、1960年代の映画の修復にあたる現代の女性監督を演じています。その60年代の映画、女性監督による「女判事」も興味深く、時代を超えた女性監督の苦労と映画愛がにじみ出ています。シン・スウォン監督は男性中心の韓国映画界で10年以上にわたり奮闘してきた数少ない女性監督の一人。失われたフィルムをめぐって関係者を訪ねて回る、ドキュメンタリーともミステリーともいえる作風に惹きつけられます。

 近年、韓国でも女性監督の躍進が目立ちます。背景には18年に広まった#MeToo運動があります。フェミニズム隆盛のきっかけとなった小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の映画版には、少子化の要因の一つとされる「経歴断絶女性」が出てきます。出産育児で仕事を辞めた女性の再就職が難しいという問題で、最近は「経歴保有女性」と言い換えるようになってきました。

 5月は「光州事件」が起きた月です。光州事件とは、1980年、民主化運動が暴力的に鎮圧され、多くの犠牲者が出た事件のこと。「ペパーミント・キャンディー」では、加害者の苦悩が描かれています。主人公の男性(ソル・ギョング)が自殺に至るまでの20年を遡(さかのぼ)る映画で、1980年まで遡ったところで、光州事件の時に女子学生を誤射したトラウマが、その後の人生を狂わせたことがわかります。

「1987、ある闘いの真実」は、1987年の「6月民主抗争」を描いています。光州事件の実態を知った学生たちが民主化運動に身を投じていく様子が描かれています。韓国映画は、社会問題や史実をテーマにした作品も多く、隣国を知るきっかけになるはずです。(ライター・成川彩=ソウル))

AERA 2023年5月1ー8日号より
AERA 2023年5月1ー8日号より

■社会と歴史が見える

○60年代に活躍した女性監督がモデル

「オマージュ」/シン・スウォン(2021年)

○平凡な女性の生きづらさを描く

「82年生まれ、キム・ジヨン」キム・ドヨン(2019年)/BD 6380円(税込み)/DVD 5280円(税込み)/クロックワークス、ハピネット・メディアマーケティング

「ペパーミント・キャンディー/イ・チャンドン(1999年)

「1987、ある闘いの真実」/チャン・ジュナン(2017年)

「はちどり」/キム・ボラ(2018年)

「リトル・フォレスト 春夏秋冬」/イム・スルレ(2018年)

「おばあちゃんの家」/イ・ジョンヒャン(2002年)

「子をお願い」/チョン・ジェウン(2001年)

「サムジンカンパニー1995」/イ・ジョンピル(2020年)

「ほえる犬は噛まない」/ポン・ジュノ(2000年)

AERA 2023年5月1日号-8日合併号