東京大学大学院薬学系研究科教授の池谷裕二さん
東京大学大学院薬学系研究科教授の池谷裕二さん

 人工知能による対話型の自動応答ソフト「ChatGPT」が登場し、大きな反響を呼んでいる。海外では学生たちがAIを使用し試験対策をする動きもある。日本の教育界では、AIの活用をどのように受け止めているのか。AERA 2023年3月20日号の特集「ChatGPTの衝撃」から、ここではすでにGPTを導入している現場を紹介する。

【「将来なくなる仕事」をChatGPTに聞いてみた結果はこうなった!】

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 GPTによって激変する業界の一つが、教育現場だ。

 脳研究者で東京大学大学院薬学系研究科教授の池谷(いけがや)裕二さんのもとに、この冬、一通のメールが届いた。

「例年と出題傾向が違いますが」

 差出人は池谷さんの授業を受けている学生。今年1月に期末テストが終わった後のことだ。

 東大に限らず、大学生の多くは過去問をもとに試験対策をしている。だからこそ、池谷さんも偏りが出ないようバランスよく作問しているつもりだった。

「でも、自分でも気づかない脳のクセがあったんです」

 そのクセに気がついたのも、GPTがきっかけだった。池谷さんは今年、薬理学の試験問題をGPTで作問。提案された約20題のなかから四つを選び、出題した。 

GPT力も評価対象に

 すると、単位を落とす学生が例年の2倍に増えた。そして、先のメールが届いたという。

「そんな連絡がきたのは初めてですよ」

 と池谷さんは笑みを浮かべる。傾向にとらわれることなく、幅広く勉強してほしいという思いだった。そして“2倍”の救済措置として、レポート課題を用意した。

「高血圧の薬についてChatGPTが書いた解説文である。この間違いを説明せよ」

 として提示した2千字の文章のなかには、薬の名前やメカニズム、事実関係の微妙な違いがちりばめられた。

「ChatGPTの間違いは絶妙なので、誤りを探すために、薬理学が専門である私でさえ教科書や専門書をあたりながら、30分ほど調べました」

 海外ではすでに学生たちがAIを使って試験の対策をする動きも出ている。

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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