首相官邸を出る岸田首相(中央)と長男の翔太郎首相秘書官(右)。荒井勝喜首相秘書官(当時、左)は性的少数者や同性婚に対する差別発言で2月に更迭された/2022年12月26日
首相官邸を出る岸田首相(中央)と長男の翔太郎首相秘書官(右)。荒井勝喜首相秘書官(当時、左)は性的少数者や同性婚に対する差別発言で2月に更迭された/2022年12月26日

 岸田文雄内閣の支持率低迷が続いている。これまでの岸田首相の動きを振り返ると、国民の声が届いていない政策や発言が目立つ。AERA 2023年3月6日号の記事を紹介する。

【岸田文雄内閣の支持率はこちら】

*  *  *

 元福島県知事の佐藤雄平氏(75)は最近、悲憤慷慨(ひふんこうがい)している。12年前、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故に知事として不眠不休の対応を続けた。事故への反省から政府が脱原発を進めるのは当然と思ってきたが、岸田文雄政権が原発回帰に舵(かじ)を切っていることに我慢がならないのだ。

 渡部恒三元通商産業相(現経済産業相)の秘書を長く務め、参院議員を経て知事に転じた。永田町や霞が関に知人が多く、岸田政権の実情について情報交換することも多い。「強権」といわれた安倍晋三・菅義偉両政権に代わって「リベラル」を掲げる岸田政権が登場し、政治も少しは変わるかなと期待した。だが、実際は違った。「防衛費増額も原発回帰も、官僚や業界の意見しか聞かずに強引に進めている。庶民の声が届かない政治、土の匂いがしない政治になってしまった」と嘆く。

 岸田首相は昨年秋、凶弾に倒れた安倍元首相の国葬を強行。岸田氏は、数で優(まさ)る保守派に押し込まれ、苦しい選択を迫られたとみられていた。しかし、その後の岸田首相自身の判断にも疑問符がつく。長男の翔太郎氏を首相の政務秘書官に登用。官邸の実務の要であるポストに「箔(はく)付け」のために身内を充てるという「親ばか」ぶりである。翔太郎氏は年明けの首相の欧米各国訪問中に同行し、閣僚らへの土産の買い物をしていたと報じられた。首相の外遊に同行する政務秘書官は、日本との連絡などのために不眠不休で働くのが職務なのに、岸田官邸の「緩み」を象徴する出来事だった。

■住民避難は後回しに

 昨年末、防衛費の大幅増額とその財源としての増税の方針も決定した。ロシアによるウクライナ侵攻や中国の台頭という「歴史の転換点」に直面し、「首相には、安全保障政策の大転換を進めなければならないという『使命感』がある」(首相側近)という。日本国内でも中国に対する脅威認識や防衛費の増額に対する理解が深まっているのは確かだ。しかし、外務省や防衛省の官僚が作った安保関連文書が閣議決定されていく中で、岸田首相が国際情勢の変化や防衛費増額をめぐる全体像を自らの言葉で説明する機会はない。

次のページ