AERA 2023年3月6日号より
AERA 2023年3月6日号より

 例えば沖縄県。中国をにらんで自衛隊の基地が増強され、中長距離ミサイルが配備される予定だ。一方で住民の不安は募る。住民避難用のシェルター建設や艦船の確保などは後回しになっている。自民党のベテラン議員は「外交や防衛を担当する官僚たちは机上のプランを練るだけだが、政治家は国民の安全を考えるのが仕事。岸田首相には国民や政治家の生の声が届いていない」と指摘する。

■社会が変わってしまう

 岸田首相はエネルギー危機への対応という名目で原発の新増設や再稼働、運転期間の延長などにも踏み出した。福島第一原発の事故によって避難を余儀なくされている人は、いまなお3万人を超えているが、そうした被災者に理解を求めることなしに原発回帰が強行されようとしている。首相は突然、「異次元の少子化対策」を宣言した。2022年秋以降は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党との癒着問題などで政権批判が強まった。加えて、防衛費増額・増税も評判が悪く、各種メディアの内閣支持率は低迷。政権の立て直しのためには、国民の関心が高い少子化対策に取り組む姿勢を見せよう。そんな思惑は明らかだ。だが、首相は少子化に関連して、産休や育休中の女性もリスキリング(学び直し)ができるようにしたいという国会答弁をして顰蹙(ひんしゅく)を買った。子育てに苦労している家族の声は岸田首相に届いていない。

 そして2月には荒井勝喜・首相秘書官(当時)の差別発言である。岸田首相が同性婚に関連して、衆院予算委員会で「社会が変わってしまう」と答弁したことについて、記者団にオフレコで説明した際のものだ。LGBT(性的少数者)や同性婚カップルについて「隣に住んでいても嫌だ」「秘書官室もみんな反対する」などと述べた。岸田政権も推し進める「多様性」に反することは明らかだ。

 岸田首相はこの発言を「言語道断」とし、直ちに荒井氏を更迭。荒井氏は出身の経産省に戻された。しかし、荒井発言の元になった首相の「社会が変わってしまう」という認識が問われなければならない。LGBTや同性婚など男女の在り方をめぐって、社会はすでに大きく変わっている。「変わってしまう」という首相の古い認識が露呈したといえる。そして、ここでも、差別や偏見に苦しむ当事者に対する岸田首相の思いが欠けていることが明らかになった。(政治ジャーナリスト・星浩)

AERA 2023年3月6日号より抜粋