報道陣の取材に応じるフィリピンのレムリア司法相=2月2日、マニラ(撮影/翁長忠雄)
報道陣の取材に応じるフィリピンのレムリア司法相=2月2日、マニラ(撮影/翁長忠雄)

 収容施設で「自由」が金で手に入るのは、公務員の給与が低いことが背景にあるという。公務員は「副収入」を得たい。入管施設にいるのは金を持つ外国人が多い。「持ちつ持たれつ」の関係が成立している。

 入管施設だけでなく刑務所でも「金次第」が実態だ。ある日本人死刑囚は減刑、恩赦を受けて日本に送還されたが、収監中に携帯電話で知り合った女性と結婚して子どもが生まれ、子どもも一緒に帰国した。

 2014年には刑務所の一部収監者への「特別待遇」が問題となった。強盗団のリーダーが刑務所内の病院に寄付した見返りに料理人や給仕、身辺警護付きの個室を与えられたり、犯罪組織幹部の収監者が刑務所外の私立病院に入院し、女性ダンサーを病室に招いたりしていた。

 刑務所では犯罪組織ごとに「自治組織」がつくられることが常態化している。ある自治組織のリーダーは刑務所内に「自宅兼事務所」を構えて、インターネットや携帯電話を使って違法薬物取引を行っていた。

 酒井さんによれば、定員の数倍はいる収監者数と比較して刑務官が圧倒的に足りない状況で、所内のトラブル解決や治安維持には自治組織に頼らざるを得ないという事情がある。刑務所の「平穏」を維持する必要悪的なシステムとなっている。

■「上から目線」

 フィリピンの刑事司法が法律通りに機能していないのは、「法治」でなく、現場に暗黙の裁量権がある「人治」の国だからという指摘も多い。

 ただ、今回の事件を機にフィリピンを「だめな国」「危険な国」だと日本から批判することは「上から目線」でしかない。収容されているのは日本から逮捕状が出ている容疑者である。フィリピン側はマルコス大統領の訪日への影響を最小限にしようと、早期の強制送還に尽力し、レムリア司法相はメディアに連日、朝夕と対応した。自戒も込め、迷惑をかけているのは日本側だという自覚を持たねばと強く思う現場だった。(朝日新聞アジア総局長・翁長忠雄)

AERA 2023年2月20日号