photo (c)2022 「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINEMAS
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 僕は聴者で、ろうの方々の抱える問題を代弁することはできません。当事者ではない人間が、映画づくりを通してどう関わりうるのかを模索しました。例えば日常生活では、ときに言葉で言い表せない「スペシャルな瞬間」が訪れます。お互いに目を見合わせて「いま、すごいことが起きたよね!」と無言でうなずき合うような。どんな言語を使う人にもそんな瞬間があり、それは映像であれば表現することができます。

photo (c)2022 「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINEMAS
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 本作のリサーチを通じてもっとも強く感じたのは自分が聴者であることの再認識でした。そう意識すると当たり前に聞こえていた音が、感じていた世界が、まったく違ってみえてくる。自分がどういう人間であるかを改めて知ることで他者が世界をどう見ているのかを初めてしっかり想像することができた気がします。本作がみなさんに今まで感じたことのなかった「音」や、これまで知らなかった世界への想像をかき立てるきっかけになればうれしいです。(取材/文・中村千晶)

AERA 2022年12月19日号