女性(25)が借りた奨学金の返済額等が記された書類。一種と二種で合わせて約412万円。順調に返せても、240回で20年かかる。「本当に長いです」(photo 女性提供)
女性(25)が借りた奨学金の返済額等が記された書類。一種と二種で合わせて約412万円。順調に返せても、240回で20年かかる。「本当に長いです」(photo 女性提供)

 奨学金という名の「借金」が、若者を苦しめる。自死を考える人もいる。制度を変えたい──。若者を中心に、プロジェクトも立ち上がった。AERA2022年10月31日号の記事を紹介する。

【グラフ】貸与型奨学金の利用者の推移

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 死んでチャラにするしかない。

 都内に住む女性(25)は、高校の教員をしていた2020年夏ごろ、そう思った。

「教員を辞めたら返せる見込みもないし、そもそも働ける自信もなかったので。もう終わりだと思ってました」

 ここまで女性を追い詰めたのが奨学金だ。

 国内の奨学金事業の約9割を担うのが、日本学生支援機構(JASSO)の奨学金だ。返済不要の「給付型」と返済が必要な「貸与型」があるが、給付型は所得制限があるため貸与型が圧倒的に多い。貸与型には無利子の「一種」と有利子の「二種」があり、学費の値上がりと親の収入減を背景に利用者は増加傾向にある。JASSOから貸与を受けている大学生・短大生らは、2021年度は合わせて延べ約116万人で、25年前の2.5倍だ。

 女性は高校生の時、教員になるため大学への進学を決めた。家庭の経済状況を考えると奨学金を借りない選択肢はなかった。奨学金は「借金」という認識はあったが、大学を卒業後は正社員として働けば問題なく返せると思っていた。こうして一種と二種で計約412万円を借りて、私立大学に進学した。

■家族に迷惑かけられず

 20年3月に大学を卒業。翌4月から教員になると、奨学金の返済も始まった。毎月約1万7千円。決して余裕はなかったが、何とか返済できていた。

 しかし、仕事がきつく体調を壊した。教員をやめようと考えた時、真っ先に浮かんだのが奨学金の返済だった。

 やめたい、でもやめたら奨学金の返済ができなくなる、でもやめたい……。もうダメだ。

 死にたいと思ったのはこの頃だ。奨学金は、借りた本人が死亡するか重度の心身障害を負った場合、返済が免除される。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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