トリプル主治医で地域とつながる

 トリプル主治医とは、基幹病院と地域の総合病院と地域のかかりつけ医が連携し、それぞれの役割を決めてひとりの患者さんに寄り添うというシステムです。

 たとえば、風邪症状への処方や日常の医療処置・ケアの支援はかかりつけ医、感染症などで入院が必要な場合は総合病院、もともとの疾患に対する治療や手術、診療計画は基幹病院とすることです。

 こうすることで基幹病院への負担も分散され、ご家族は通院の負担を減らすことができます。また、地域でかかりつけ医を持つことにより、訪問看護やヘルパーなどの社会資源ともつながりやすくなるし、何よりも将来にわたる地域での生活を大切にできます。

 私自身も、現在は長女の医療的ケアの管理を地域のクリニックにお願いするようになり、それまで以上に地域で安心して暮らせるようになりました。

10年で2倍に増えた医療的ケア児

 医療的ケア児はこの10年で2倍に増え、全国に2万人以上いるとされています。

 保護者が付きっきりで医療的ケア(人工呼吸器の管理や、たんの吸引や経管栄養の注入などの医療行為)を担い、地域に相談場所を見つけられないまま育児全般を抱えこみ、孤立してしまうケースもまだまだ見受けられます。

 私が運営するNPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)のピアサポート(※ピアは仲間という意味。経験者が相談にのるシステム)にも、同じような障害のある子どもを持つ家庭とまったくつながりがなく、基幹病院では診察時間が限られているため、原疾患のことは相談できても、生活上の不安を話すことができないといった相談も多くあります。

「医療的ケア児支援法」は、医療的ケア児を法律上できちんと定義し、医療的ケア児の健やかな成長を図ることと、家族の負担軽減や離職防止を目的でつくられました。

 法律が施行されてからの1年で、「医療的ケア児」という言葉を見聞きする機会はかなり増えたように思います。

 ただ、実際に家族が生活する場にこの法律が浸透するまでには、もう少し時間がかかりそうです。多くの方に医療的ケア児の支援の必要性を知ってもらうために、これからも発信を続けていきたいと思っています。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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