星野先生(中央)と大友さん(左)との座談会では、医療的ケアを要する子どもとそのご家族の生活を支えるためにご尽力されているお二人の活動に頭が下がる思いでした(江利川ちひろ提供)
星野先生(中央)と大友さん(左)との座談会では、医療的ケアを要する子どもとそのご家族の生活を支えるためにご尽力されているお二人の活動に頭が下がる思いでした(江利川ちひろ提供)

「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

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 昨日発売されたAERA 9月19日号で、神奈川県立こども医療センター地域連携・家族支援局長で新生児科医の星野陸夫先生と、社会福祉法人風祭の森地域支援センター長で医療的ケア児等コーディネーターの大友崇弘さんとの座談会の様子が掲載されました。星野先生とは、以前から何度か先生が登壇する勉強会に出席させていただいており、大友さんとは、私が社会福祉士を取得するための実習中に、実習指導者の方がプログラムのひとつとして、大友さんの施設へ連れて行ってくれたことがきっかけで知り合いました。

 いつか、お二人が取り組まれていることについて、ゆっくりお話を聴きたいと思っていたので、この企画はうれしかったです。とても勉強にもなりました。

 座談会は「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(以下、医療的ケア児支援法)の施行から1年がたち、医療的ケア児を育てる環境に変化があったか? をテーマに行いました。

 3時間近く話し続けても時間が足りず、医療的ケア児に関する課題や、今後への期待の大きさを改めて実感しました。

 今回は記事の続編として、医療的ケア児の生活について、少し別の角度から書いてみようと思います。

病院も受け入れ数に限界がある

  赤ちゃんに病気や障害があると分かった時、大半の新米パパやママは、不安や悩みを抱えながらも、専門医のいる大学病院や子ども病院などの基幹病院を主治医として、その後の赤ちゃんの成長を見守っていきます。 

 基幹病院のNICU(新生児集中治療室)は、さまざまな重い病気を持つ赤ちゃんが多くいるため、設備が整い、スタッフは保護者とのやりとりにも慣れていて安心できる場所です。

 退院後も、その安心感から必然的に、受診する専門外来を同じ病院でまとめるケースが多くなります。

 けれども、基幹病院の受け入れ数には限界があります。

遠方への通院が家族に負担に

 医療の進歩により専門性が細分化され、人工呼吸器などの高度医療が必要な子どもほど基幹病院への依存度が高く、地域でかかりつけ医を見つけられない現状が大きな課題となっています。

 基幹病院は居住地から離れていることも多く、通院に時間がかかり、パパやママの負担がさらに増えてしまうこともあります。

 このコラムでも以前触れましたが、私自身も双子の娘たちを出産後、重い障害が残った長女を連れて、車で往復2時間以上かかる遠方の病院に通い続け、10年以上も地域医療の枠から離れている時期がありました。

 そこで、このような現状を改善するため、記事の中で星野先生は「小児科のトリプル主治医制」の大切さをお話されています。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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