ある意味で一線を越えてしまった北朝鮮は、「非核化が先でそれに応じて飴(あめ)がある」という、これまで行われてきた「非核化先行」の交渉条件を一切受け付けないでしょう。ソ連邦崩壊後、リスボン議定書によって核を放棄したウクライナの現状は、北朝鮮にとって反面教師になっているのかもしれません。

 今回のウクライナ侵攻は、ロシアと北朝鮮の関係を強めることになりました。恐らく北朝鮮はより核武装化していくことになるはずです。そうなれば同時に、日本の専守防衛の基本的な安全保障政策が変わっていく可能性が出てきます。現在、自民党は防衛費を国内総生産(GDP)の2%以上に引き上げるなどの提言案を議論しています。今後は「核共有」の議論の声が再び上がる可能性もあります。

 何も問題が解決されないジレンマの中で、戦後日本の「専守防衛」の安保・防衛の基本方針が骨抜きになり、「軍事化」だけが進んでいくことになりかねません。それが、「抑止力」を高めることになるのか。あるいは軍拡競争のトリガーになるのか。冷静かつ客観的な検討が必要です。

◎姜尚中(カン・サンジュン)/1950年本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

AERA 2022年5月2-9日合併号

著者プロフィールを見る
姜尚中

姜尚中

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

姜尚中の記事一覧はこちら