けれど、俯瞰(ふかん)して考えると、プーチン大統領は、東部地域を確保するためだけに侵攻しているのではないと思います。彼は「旧ロシア帝国領と旧ソ連領である土地はすべてがロシアの勢力圏」であるべきだという思想です。ウクライナ全体がロシアと一体である、という認識で一貫しています。

 ソ連崩壊によって、ウクライナが独立してから30年。長い歴史の中の「わずか」30年です。

 ですが、ウクライナというナショナリズムが広がり、アイデンティティーが浸透するには十分な時間だったということでしょう。大統領選挙の結果をめぐり親欧米派と親ロシア派が対立した2004年のオレンジ革命の頃から、加速した動きだと思います。

 それまで境界がはっきりしない時期が長かったため、ウクライナアイデンティティーは非常にあいまいなものでした。それゆえに周辺地域とバランスを取り安定してきた部分もあります。ですが、今やウクライナアイデンティティーは深く浸透しました。今回のロシア軍の侵攻がウクライナの国民から大きな反発を招いていることは、当然のことだと言えるでしょう。

(編集部・古田真梨子)

AERA 2022年5月2-9日合併号