「記憶は地に沁み、風を越え 日本の新進作家 vol. 18、東京都写真美術館(2021)(c)Kenji Takahashi」での吉田さんの展示(photo 写真部・高野楓菜)
「記憶は地に沁み、風を越え 日本の新進作家 vol. 18、東京都写真美術館(2021)(c)Kenji Takahashi」での吉田さんの展示(photo 写真部・高野楓菜)

 今年度で第46回を迎えた木村伊兵衛写真賞に吉田志穂さんが選ばれた。その唯一無二の作風は、デジタルネイティブ世代だからこそ生み出された。AERA 2022年4月4日号の記事を紹介する。

【写真】受賞した吉田志穂さんと、作品の写真はこちら

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 写真作品の「芥川賞」とも称される「木村伊兵衛写真賞」。第46回の受賞者が、吉田志穂さん(29)に決まった。東京都写真美術館でのグループ展のほか数々の展示や写真集など、2020年から21年に発表された多岐にわたる作品が選考対象となっている。選考委員は写真家の大西みつぐ、長島有里枝、澤田知子の3氏と小説家の平野啓一郎氏。

 吉田さんの作品は、写真を一枚ずつ、わかりやすく見せていくものではなく、全体の構成そのもので伝えていこうとする。展示空間の暗がりの中で、固有性から切り離されたイメージが交差する。自然風景を題材にしてはいるが、何が写っているのか判然としていない。そんな、写真におけるインスタレーションに、大きな特徴がある。

 制作の過程が独特だ。インターネットで特定の場所の画像を検索し、ピックアップした画像とともに現地へ向かう。現地で自身による撮影を行い、検索画像を入れ込んだ撮影や加工を行う、などというものだ。中学時代からなんでもネットで検索していた。インターネットが生活の中に当たり前にある、デジタルネイティブ世代の写真家だ。

■新しい表現を生み出す

「どこかへ撮影に行くにしても、行く前からさまざまな画像が必ず目に入ります。上手な写真がネットには溢れていて、自分が撮るよりもうまい人がいる。ならば風景をストレートに撮ってもしょうがないと思ったんです。画像検索、グーグルマップなどの新しい要素と、現像やプリントという写真の伝統的な工程を合わせて何か新しい表現ができないかなと思いました」

 と吉田さんは言う。

 受賞作のひとつ『測量|山』は、学生時代から撮りためていた山の写真が元になっている。

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