最初、ツアーで自分の経験や思いを言葉にすることに抵抗感があった。しかし重ねていくうちに、参加者も自分と同じようなことを考えている人が少なからずいるとわかり、続けていいんだと思うようになったという。

 富岡町は17年に町の面積の約9割で避難指示が解かれ、今年1月には規制が緩和され秋元さんの自宅があった地区は自由に立ち入ることができるようになった。しかし、町に実際に居住するのは1800人ほどで、震災前の1割程度に過ぎない。

 秋元さんは、この町で暮らす一人ひとりが、便利さだけでない豊かさとは何かを思考し、それを取り戻してほしいという。そのためにも、ツアー活動を続けたいと話す。

 5年後、10年後の自身を想像できますか?

「どうなんでしょうね」

 と言った後、こうつないだ。

「私自身の考えも深めながら、変わっていくこの町とともに、生きていきたいと思います」

 一歩一歩、一つずつ、若者たちによって、東北は前に進む。(編集部・野村昌二)

AERA 2022年3月14日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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