■気候危機と新たな覇権争い

 では気候戦争とはなにか。それは、気候危機を前にして、新しい世界秩序を確立し、覇権の維持を目指すグローバルな闘争の一形態である。危機のもとでの新たな覇権をめぐる争いは、無論ロシアだけのものではない。この争いには、今回のウクライナとロシアの緊張関係を生むきっかけとなった欧米だけでなく、中国も深くかかわる。

 それが、再エネや電気自動車への経済インフラの全面転換であり、EUのタクソノミー(環境に配慮した経済活動かを認定する基準)に見られる規制作りである。欧米や中国は、自分たちが独自に制定する基準のもとで、他国の規格外の商品を排除しつつ、「環境に優しい」自国の新商品を他国に売りつけようと争っている。それが脱化石燃料による経済成長を目指す「緑の資本主義」の中核戦略をなす(付言すれば、この新たなルール作りの蚊帳の外に日本がいるせいで、日本の政治もメディアもこの新しい世界秩序にむけての闘争について関心が極めて低い)。

 だが、「緑の資本主義」も資源やエネルギーを必要とする。必要とされるのは、もはや化石燃料ではなく、リチウム、ニッケルやコルタンといったレアアースなどの新しい資源だ。そうした資源獲得をめぐって、南米やアフリカで米中の緊張関係が高まっているのは周知のとおりだ。

 今後、化石燃料の需要は伸び悩み、リチウムが「21世紀の石油」となる。当然、そうした転換は、これまでの化石燃料の輸出で金もうけをし、諸外国への影響を保持してきた国にとっては大きな損失となる。

 長期で見たときのロシア経済にとって、これは憂鬱(ゆううつ)の種だろう。ロシアは石炭、石油や天然ガスの輸出大国であり、経済は化石燃料の上に成り立っていると言っても過言ではない。世界の脱炭素化が実現していけば、化石燃料への需要も大きく低下する。そうなれば、ロシア経済は致命的なダメージを被る。それは、オリガルヒと呼ばれる新興財閥の超富裕層たちに支えられたプーチン自身の権力体制に対する死刑宣告になるだろう。だとすれば、プーチンがそのリスクを認識しているのは間違いない 。事実、ロシアは、すでにレアアースの世界シェアを増やすべく、動き始めている。

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「緑の資本主義」は不十分