■深まる気候変動の危機

 悪いニュースは、これがロシアだけに言えることではない、ということだ。今後、気候変動が深刻化するなかで、水、食糧、資源、エネルギーをめぐる紛争や戦争の火種は増えていく。

 そして、その気候変動の悪影響についての科学者たちの予想は、ますます悲観的になっている。今回のウクライナ侵攻が始まった数日後、IPCCが第6次評価報告書の一部を成す3千ページ超えの文書を公表した。公表に合わせた会見で、グテーレス国連事務総長は、この報告書はまさに「人類の苦難の縮図」であると述べた。それほど、気候変動の危機は深まっている。

「人新世」の危機は、当然、世界中のありとあらゆる次元に影を落とす。だからこそ、今回のロシア侵略を新たな「気候」戦争としてもとらえる必要がある。また、ロシアに対する欧米や中国の対応も、気候危機のもとでの覇権をめぐる帝国間の争いとしてとらえなおさねばならない。

「人新世」の危機は私たちがかつて経験したことのない事態であり、脱炭素化を進めると同時に、帝国主義的競争が激化しないような平和への道を、人類は新たに思考しなければならない。さもなければ、この惑星の未来は暗い。冷静に書かれたIPCCの報告書だが、最後の一節には、もう一刻の猶予もないという科学者たちの切迫感がにじんでいる。

「居住可能で、持続可能な未来をあらゆる人々に確保する『機会の窓』は、急速に閉じつつある。(気候危機への)適応と(気温上昇の)緩和に向けて、先を見据えた世界的な協調行動が、これ以上少しでも遅れるならば、このわずかな機会を失うことになるだろう」

 戦争が長期化すれば、より多くの命が失われるうえに、この窓は永久に閉じることになる。

(寄稿)

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